SSS置き場 | ナノ


 山吹と理澄と和希

「つっかれた……」
「お疲れ、梓」
「……お疲れ」

 小虎につられて俺も一応そう言っといたけど、梓がなんでそんなに疲れてるのか、俺には分からなかった。少なくとも部活じゃ特に何か事件があったってわけでもないくいつも通りだったし、ということはクラスでなんかあったのか。気になるっちゃ気になるけど、そこまで気になるというほどのことでもない。

「もう1stやりたくねぇ」

 ……ちなみに、いつも通りってのは、茅ヶ崎先輩が来てないのも含めて。
 心配して損した、とまでは言わないけど、いつものことだった。そろそろ諦めればいいのに。茅ヶ崎先輩は山吹のことを“石頭メガネ”って呼んでるけど、的を射てると思う。俺みたいに高校から吹奏楽を始めたんならともかく、中学からずっとトランペットだったんんなら、一年で1stやっててもなんらおかしくはないと思うけど。

「でも、万が一ってこともあるし、1stもできるようになっておくのは悪いことじゃないと思うよ?」
「万が一?」
「本番当日茅ヶ崎先輩がインフルエンザになったとかで来られなくなったりとか。おれ中学の時に一回あったんだよねー。今じゃいい思い出だけど、あせったよ」

 まあ、不謹慎だけど、先輩が当日に事故に遭ったりだとかで急きょ出られなくなる可能性だって、なきにしもあらずだしな。

「で、小虎が1stやったわけ?」
「うん」
「ぶっつけ本番で? ……大丈夫だったのか?」
「なんとかね。時々初見大会やってたおかげで」

 初見でなんとかできたってのもすげーし、しかもそれがぶっつけ本番ってのはもっとすげーよな。パーカスでいうと、前日までずっとティンパニ練習してたのに、本番当日に急にドラムをやることになるようなもんだろうし。俺には絶対無理だな。ドラムじゃなくて、鍵盤なら大丈夫とかそういう話じゃなくて。

「そんなこともあったからさ、最悪の事態に備えておくのは悪いことじゃないと思うよ?」
「まあそりゃそうだけど……」
「それ、うちの先輩たちも時々言ってる。誰かが休んだ時なんか、休んだ人の分までやってて、一人で二、三人分動いてるんだよな……」
「へー、すごいね」

 目を丸くする二人に、あれだけ激しく動いてるのに知らなかったのかよと俺のほうがびっくりしたけど、よく考えれば普段の合奏でパーカスは管楽器の後ろにいるから、二人が知らなくても当然だった。

 決して誰かが休みになったことを喜んでいるというわけではなく、誰かが休んだ時にその人の分までやってる時の先輩たちは、決まって生き生きと楽しそうに本来なら二人分、はたまた三人分のパートを一人でこなしていた。
 猫柳先輩が左手でバスドラ、右手でサスシンを同時に演奏してた時はびびったっけな。休みで手が空いてる時に違う楽器をやるのは分かるけど、同時に二つの楽器をやるとかさあ。他にも、マレットの反対側――持つほうをスティック代わりにしてたりだとか、スティックでトライアングルを叩いたりだとか、割とその辺は自由らしい。

「でも、トランペットはじゃんけんでその日のパート決めてるくらいだし、梓はその辺心配なさそうだよね。当日1stやってって言われても対応できるだろうし」
「当日は無理だって。練習だから仕方なくやってるだけであって、当日やれって言われたら無理。仮病使ってエスケープするわ」

 とか言いながらも、根は真面目だからな、梓。ぶつくさ文句を言いながらもやるんだろうな。

 しっかし、いくら練習とはいえ、日によって違うパートやってるとか、よく考えるとすげーよな。

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