SSS置き場 | ナノ


 響介と有牛(大学生)

トイレに行った有牛を待っている間、ふと耳に入った曲に響介は無意識にふんふんと適当に歌っていた鼻歌を止める。

響介がいる目と鼻の先にはCDショップがあった。そこの中で流している曲だろう。この時期になるとよく耳にする曲で、数年前にリリースされたこの曲を響介も知っていた。

(もう一年経つのかぁ……早いなぁ)

目を閉じて、思い出に浸る。目頭が熱くなるのを感じた。
だって、この曲は。

「倉鹿野?」
「うわあ!?」

不意に呼ばれた自分の名前に響介は体をびくりと震わせた。響介の大きな声に何事かと周囲の人たちが足を止め、こちらに視線を向ける。かあっと顔に熱が集まるのを感じながら、すみませんと平謝りする響介。

「ごめん」
「い、いや……こっちこそごめん。ちょっとボーっとしてて」
「この曲?」

驚かせたことに謝られ、未だ顔に集まった熱がひかないまま謝り返す。ぼーっとしていたと言えば、すぐにその原因を有牛にあてられた。

「うん。懐かしいなーって」
「泣いてるね」
「えっ嘘」
「冗談だよ」

いくら懐かしいとはいえ、こんな場所で泣いていたなんて。慌てて涙を拭おうと手の甲で目をこすれば、けらけらと笑う有牛。泣いていなくてよかったという思いと、からかわないでくれという思いとが同時に込み上げる。

「でも、泣きたくなっても仕方ないよね。あの頃楽しかったし」
「……うん。中学と比べると式自体はあっさりしてたけどね」

今流れているこの曲は、ちょうど一年前の今日、卒業式で卒業生が退場する時に演奏した曲だった。卒業生と、保護者の席の後ろの隅の方。その中に自分たちはいなかった。後輩たちが演奏する曲を聞きながら、体育館を後にした。

学校生活を共にしたクラスメイトや、世話になった教師と別れることももちろん悲しくはあったが、それ以上に部活を引退することの方がつらかった。
同性しかいなかったから先輩も後輩も関係なく仲が良くて、そのおかげか音もまとまっていて。とにかく居心地が良かった。部活のためだけに学校に行っているといっても過言ではなかったくらい。

「……戻りたいなぁ、高校生に」
「俺も時々思う。でも、吹奏楽を続けてたらいつか絶対みんなに会えるよ」
「だよね」

高校を卒業した今も、二人は吹奏楽を続けている。

ついこの間、近くで演奏会があり、誘い合わせて行ってみると同級生だった熊谷と千鳥の姿があった。自分たちと同じように楽器を続けていてよかったと、それぞれ四人は同じことを言って笑った。

後輩たちが、卒業してからも吹奏楽を続けるかは分からない。けれど、もし続けるならば、きっとどこかで名前を聞いたり、会うことはあるだろう。

それだけ音楽の輪というのは広いのだ。

(そしてまた一緒に吹奏楽できたらいいな)

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -