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 律と奏斗

 僕は中学からずっとパーカッションをやってるけどドラムが苦手だ。ドラムはねこやんが得意だから僕がドラムをやることはそれほどないんだけど、時にはやらなきゃいけない時もある。今回はバラードだから、それほどみんなに迷惑はかけないだろうけど、僕のことだからどうかな。極端だけど、エル・クンバンチェロとかシング・シング・シングなんかをまかされたら、出だしでこけちゃって曲がはじまらないからね。

「じゃあ俺、鍵盤やっていいですか?」
「猫柳が鍵盤やるとかめずらしいね」
「たまには挑戦してみようかと思って……」
「おーがんばれがんばれー」

 パーカスはどこの学校でもその人の得意、または好きな楽器で誰がどの楽器をやるか、自然と担当が決まってくるんだけど、うちの場合は、ドラムがねこやんで鍵盤が僕、ティンパニがりりちゃんで菊池先輩と和希が小物っていうのがいつものパターン。今回はわけあって、ドラムが僕、鍵盤がねこやん、ティンパニが菊池先輩、小物がりりちゃんと和希になった。

「常々思ってるけど、やっぱりうさたんってすごいわ……。鍵盤できる人って絶対人間じゃない」

 その日の昼休み、急にねこやんが真面目な顔をしたかと思うと、ため息交じりにそんなことをぼやいた。その顔がなんだかおもしろくて、飲んでいたりんごジュースがあやうく気管に入るところだった。

「そうかなぁ。ねこやんのほうがすごいと思うけど。だって、ドラムがしっかりしてないと曲が通らないし、それにバスドラとかスネアとかシンバルとか、ひとりで何個も演奏してるわけでしょ? ドラムこそ人間業じゃないよ」
「そっかな。でもうさたんだってドラム叩けるじゃん?」
「まあ叩けるといえば叩けるけど、僕がドラムやると先生に注意されっぱなしだし……。パーカスなのにドラムができないってダメだよね」
「え? なんで? 別にダメじゃなくない?」

 きょとんとした表情で言われて、たぶん僕もきょとんとした顔になってたと思う。
 だって、僕が中学生の時は、先輩や同級生がみんなそう言ってたから。パーカスはドラムができないとって。

「だって、パーカスになったら初めて教えてもらう楽器だし……。他のところでは違うのかもしれないけど、僕の中学ではそうだった」
「うちもそうだったし、どこでも最初に覚えるのはたいていドラムだろうけど……。でも人間、なんでも向き不向きがあるじゃん。苦手なものがあるのは仕方ないし、無理に苦手なものをやるよりは得意なやつを伸ばしたほうが俺はいいと思うけどなぁ。向いてないものを無理にやる必要はないと思うんだよね、俺。ていうか、パーカッションって一言で言っても星の数ほど楽器はあるわけだし、全部できなきゃおかしいってほうがどうかしてるでしょ」

 無理に苦手なものをやるより、得意なことを伸ばしたほうがいいっていうのは、僕もそう思うけど、でも部活じゃそうもいかないと思う。……でも、打楽器はいっぱいあるから全部できて当然っていうのはおかしいのは僕も同感。

「まあ今回は仕方ないけどさ、俺も鍵盤頑張るから一緒に頑張ろうよ。分からないことがあったら教えるし、逆に分からないことがあったら俺にも教えてね?」

 ……そっか。ねこやんが今回自分から鍵盤を選んだの、僕もめずらしいなぁと思ってたけど、そういうことだったんだ。

「うん、いいよ。……あ、本番で和音外さないでね?」
「……気をつけます」

 去年、グロッケンがすごく目立つところでねこやんが連続で和音を外した事件があったんだよね。あの時のねこやん、動揺がすごく顔に出てたし、静かな曲だったからついでにばっちり笑い声も聞こえてたよ。本番で失敗したらそれを顔に出さなければお客さんにはばれないよって和希に自信満々にアドバイスしてたのにって、あの後しばらくパーカスで笑い話になってた。ほんと、ねこやんっておもしろい。

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