SSS置き場 | ナノ


 連と冴苗と山吹

「オレさぁ、自分の卒業式で3月9日やってほしいんだよねー。入場でも退場でもいいから」

 茅ヶ崎先輩の口から卒業という言葉が出てどきっとする。……そういえば、そろそろ三年生の先輩たちは引退か。もうそんな時期だっけ。
 三年生の引退って、結構重大な感じはするけど、ああもうすぐ先輩たちは引退するのか、なんて考える暇は吹部にはあんまりない気がする。吹コンに必死になって、文化祭で忙しくなって、定期演奏会にも必死になって、気が付いたら引退当日になってる。

「3月9日って定番だけどやったことないなぁ」
「あの曲って本来結婚式の曲ですけどね」
「そうなの?」

 おれも卒業式といえば真っ先に思い浮かぶのは3月9日で、本来は結婚を祝うための曲だってことは、つい最近まで知らなかった。榎並先輩の言うように、そしておれみたいに、卒業式の定番ソングといえば? って聞かれたらこの曲をあげる人は多いと思うし、知ってる人のほうが少なさそう。

「確かさぁ、3月9日ってラッパのメロディあったじゃん?」

 トランペットのメロディがあるのがAメロかBメロかサビかは知らないし、茅ヶ崎先輩が言ってるのがどこの会社のやつかも分かんないけど、どの曲にもまああるだろうな。トランペットだし。

「前から思ってたんだけど、あれを石頭メガネにやってほしいんだよね。1st」
「……は? おれですか?」

 一年が1st吹くとか、っていうのがおれの口癖だけど、中学ではともかく、高校でも年功序列で決まるわけじゃないってのは頭の片隅では分かってる。……んだけど、やっぱりキャリアを考えると先輩がやるべきだと思うし、自分で自分の音は1st向きではないような気がしてるんだよな。だからといって2ndや3rdに向いてるとも思ってないけど。時々茅ヶ崎先輩がサボった時に代わりにやるたび、自分は1stには向いてないなと思う。

「そしたら思い残すことはないからさーやってよー石頭ー」
「だってよぶっきー。れんれん先輩のために1stやってあげて!」
「……その前に早まらないでください」

 茅ヶ崎先輩はその日その日で言ってることがころころ変わるから、前から俺に1stをやってほしかったとか、やってくれたら安心して卒業できるとか言われても、いまいち信用できないのが本音だけど。

「ま、あたしもれんれん先輩が引退したら1stはぶっきーにまかせようと思ってたし、ぶっきーが嫌って言おうと逃げようとやらせるつもりでいるけどね」
「やらせてやらせてー。ポニテちゃんは下の音がいいから下やってほしいし、石頭はもうちょっとって感じだけど、1st向きの音してると思うんだよねー」

 ……でも、練習にも気が向かないと来なかったりするのに、ちゃんとおれたちのことを見てくれてるとかずるいし、それならがんばろうかなぁ、なんて思っちゃうおれは、茅ヶ崎先輩よりも単純だ。





※ミュージックエイトの3月9日

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