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 ディスコ・キッド

「ディスコ!」

 音楽室のドアを開けるとほぼ同時に聞こえてきた、元気のいい息の合った掛け声に一瞬足が止まったけど、その後思わず笑ってしまった。

 音楽室でなんか楽しそうなことやってるのが聞こえたから、有牛と急いで戻ってきたらやっぱり合奏をやってて、俺もそれに混ざろうと自分の楽器を取りに行く。途中、準備室から新宮くんが出てきて、その手にはオーボエがあった。今練習してる曲は小編成用が多くてクラに持ち替えてるんだけど、このためにわざわざオーボエを持ってくるなんて、新宮くんもノリノリだなぁ。
 今は昼休みだったりするんだけど、誰かが演奏し始めると、その曲を演奏したことのある人たちが集まってきて、指揮者のいないプチ合奏になることは吹部あるあるだったりする。

 この曲――「ディスコ・キッド」は一見ポップスに聞こえるだろうけど、実は1977年の課題曲なんだよね。今でもすごい人気で、今でもいろんなところでプログラムに入ってるのをよく見かける。
 ちなみに楽譜に掛け声の指示はなくて、当時のコンクールで掛け声を入れた演奏が評価されて、今じゃそれが一般的になってるんだって。掛け声は「ディスコ!」に限らず、学校名や楽団名のところもある。うちでやるなら「しらべ!」になったりするのかな。

 この曲は高い音がちょこちょこあったりして難易度が高いから、あんまり必死にやると午後の練習に響くんだけど、それは分かってるんだけど、みんなが楽しそうに演奏するからついノリノリになって本気になっちゃうよね。こういう曲の猫柳くんのドラムが好きだなぁ。

 冒頭のピッコロソロが聞きたかったけど、クラリネットソロには間に合ったからまあいいや。千鳥がやるのかなーと思ってたらまさかの柑本さんでびっくり。真顔ですごいソロを披露してくれた。その前には本来楽譜にはないけど有牛がトロンボーンでソロをやって、引き続きドラムがハイハットを刻む中、鳩村くんがみんなにせっつかれて短いソロを披露してくれた。

 その後は茅ヶ崎くん――連くんのよく通るトランペットを合図に曲に戻る。同じフレーズを繰り返した後、新宮くんとオーボエの甘くしっとりした音色のソロと、木之下くんのユーフォのオブリガードをしっかり堪能して、曲はクライマックスへ向かう。終盤の、管のたたたん、の後に、ぽん、と入るグロッケンが何気なく好きだったりする。

「っあー……つい本気になっちゃったけど、午後大丈夫かな……」
「馬鹿だろ」

 曲が終わった後、木之下くんと合歓木くんがそんな会話をしていたのが聞こえたけど、この曲のユーフォって結構大変だよね。確か、ハイAだったかな、があった記憶がある。

「俺も『ディスコ!』って言いたかったなー」
「残念だったね。俺ももうちょっと早く来ればよかった」
「ね」

 みんなも本気になっちゃったらしくて疲れてる人も多いみたいだけど、有牛とか、連くんとか弾くんとか、まだまだ余裕そうな人って、本当、すごいよなぁ。





※参考:クラリネット以外のアドリブソロがあるのは、シエナ・ウインド・オーケストラの演奏によるもの。バスクラリネット、トロンボーン、フルート、B♭クラリネットのアドリブソロがある。

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