SSS置き場 | ナノ


 舞と凜

「目が覚めたら終わってないかなぁ、本番……」

 支部大会が近づくにつれて、舞のテンションは日に日に下がっていっていた。まーこれには理由があるから仕方ないんだけど、本番に影響するからそろそろ引きずるのやめなよ、と言いたい。でも気持ちはわからなくないからなー。

「失敗すると思うから失敗するんだって」

 なんて、えらそうに言ってみたけど、実はパート練習の時に有牛にさんざん言われてるセリフだったりする。わたしも大会と定期演奏会の前は今の舞みたいになるしね。ここまではならないけど。

「そうだけどさぁ……」

 なんでこんなに舞のテンションが下がってるかっていうと、県大会で失敗したところがあるらしい。らしいっていうのは、わたしは気付かなかったから。間違えたとこは一か所だけらしいし、一位ではなかったけど金賞で代表枠にも入れたんだから、そんなに引きずることないのになーと思う。わたしだって自覚ありのミスは地区でも県でも一回はやっちゃったしさ。

「もう来週かー……」

 遠い目をして舞はまたため息をつく。無意識なんだろうけど、ため息をつくと幸せが逃げるよ、って言おうと思ったけど、前に「幸せじゃないからため息が出るんだよ」って言われたのを思い出したからやめておく。

「でもさー、吹コンって打楽器はいつも使ってるやつと違うの使うじゃん? だから間違っても仕方ない気もするんだよね」
「うん……それを言い訳にしたくはないけど、やっぱり感覚違うからね。間違ったのはいつもと楽器が違うせい、って心の中で正当化しちゃうからやんなるよねー」

 使う楽器を全部持ってくる学校もあるけど、ティンパニとかの大型楽器は会場で借りれる。打楽器のことはよくわかんないけど、うちは借りれるやつはほとんど借りてるっぽい。同じ楽器とはいえ、いつも使ってるのと違う楽器なのに、よくぶっつけ本番で練習と同じ演奏ができるなーって中学生の時から思ってた。袖で待ってる時にためしに叩いてみるとかできないじゃん? 管楽器と打楽器はほとんど別行動だから知らないけどさ。

「それは誰しもそうしちゃうと思うけど……。それに、わたしだって当日いつもと違う楽器でやれって言われたら失敗しまくるよ。たった一回しか失敗してないの、逆にすごいと思う」
「でも借用楽器使ってるのはあたしだけじゃなくて、百合根もそうだし、他の学校だって条件は同じなわけじゃん?」
「……それはそうだけど! 神様でも県大会で失敗したところをリベンジするチャンスをくれたんだよ。もうさ、アイスでもおごるからそろそろ立ち直ってくれない?」
「え、それほんと? なんか急に元気になった気がする。あたしチョコミントね!」
「はいはい。わたしもチョコミントにしよっかな」

 現金だなぁ。……ま、これで明日には少しでも立ち直ってくれてるといいんだけど。

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