SSS置き場 | ナノ


 拓人と響介

「新宮くんってすごいよねぇ」
「……そうだな」

倉鹿野がカノンを絶賛するのはこれで何度目だろう。俺もあいつの演奏だけはすごいとは認めているが、認めていることは言いたくない。

倉鹿野はちょくちょくカノンのことを褒めている。本人の前で言ったら襲われかねないと分かっているからか、本人に面と向かって言うことはない。カノンが男に興味があるのは理由も理由だし、本人も冗談でただの暇つぶしだと言っているがあいつのことだから信じられない。同じ家に住んでて寝込みを襲われるとか、そんなことは今まで一応なかったけどな、でもあいつのことだし。用心はしている。

本人の技術もだけど、単純にオーボエが吹けるっていうのがすごいからな。
俺も一度だけオーボエを吹かせてもらったことがある。同じリード楽器でもクラリネットはシングル、オーボエはダブル。まず音がなかなか出なかった。少し頑張ってみて音は出たけど、これを吹き続けるのは俺には無理そうだった。そりゃ、オーボエに限らず数分触ってどうにかなるものではないけど。クラリネットもそうだし。

「新宮くんって音楽の勉強とかしてたの?」
「いや……してなかったと思うけど」
「そうなんだ。あともうひとつ気になってたんだけど、オーボエ吹き始めてからどれくらいなの?」
「確か、十三歳だか十四歳だったかな。それまではクラ吹いてたらしい」
「へー! じゃあオーボエ吹き始めて二年くらいってこと!? すごいなぁ」

カノンは遠い親戚らしいから、身内を褒められて嬉しいはずなのになんでこんなにも嬉しくないんだろう。あいつの技術やセンスに嫉妬しているっていうのも多少はあるだろうけど、やっぱりあの性格だからだろうか。少しでも褒めたら調子に乗るのは目に見えているし……。俺も認めているつもりだよ。一応。言わないだけで。

「オーボエに転向した理由もくだらないけどな」
「なになに?」
「ちやほやされたかったからだと。あいつの周りで吹いてる人いなかったのと、難しいからな」
「新宮くんらしいね。でも、ちやほやされたいからって楽器始める人や頑張る人って結構いると思うよ。それで努力して自分のものにしたんだからやっぱりすごいと思うな」

……確かに動機は不純でも、それで努力してああなったんだしな。

部活中はほとんどリードを削る作業で費やしてるけど、その日の天気や湿度に合わせて作らなくちゃいけないわけだから、それだって無駄なことではない。特にオーボエはリードが命だしな。
それに、リードを自作するのだってこの短期間で楽器の練習と一緒に覚えちゃったわけだから、その熱意はすごいよな。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -