SSS置き場 | ナノ


 音哉と奏斗と鳴海と律

 昼休み、奏斗が突然「ピアノが弾きたい」って言い出してピアノの前に座ったから、何を弾くのか楽しみに待ってたら、思わぬ曲を弾きだした。

「あ、この曲知ってる! 曲名思い出せねーけど! 合唱の曲だよな? なんだっけ……」
「COSMOSじゃないっけ?」
「それだ!」

 この曲は、中二の時に合唱コンクールで三年生をさしおいて最優秀賞と最優秀伴奏者賞をとった曲だったりする。……その裏には、主に俺と奏斗の涙ぐましい努力があったりしたけど。

 りっちゃんは歌ったことがあるのか、奏斗の伴奏に合わせて歌い始める。鳴海は曲は知ってるけど歌詞は知らないらしく鼻歌。他にも、音楽室にいる部員がちらほら歌っているのが聞こえる。

「これね、中学の時合唱コンクールで歌ったんだけど、音哉が指揮振ったんだよ。で、賞もらったの」
「へぇ、そうなんだ。ねむのんすごいね。ねこやんは伴奏?」
「そうだよー。いやー、あの時はいろいろあったよねぇ……」
「いろいろあったな……」
「……何があったんだよ」

 間奏というか歌詞のないところを弾きながらふと奏斗が遠い目をしだして、俺も当時を思い出してたぶん同じ顔をしてたと思う。当時いろいろあったからな、いろいろ。

 あれで奏斗が最優秀伴奏者賞に選ばれなかったらおかしかった。俺は最優秀指揮者賞はもらえなかったけど、賞はもらえたからまあいい。
 そりゃ奏斗は両親が音楽家だから才能があって当然ってみんなは思うかもしれないけど、俺も奏斗も裏では血のにじむような練習をしていた。

 りっちゃんを含めて何人かが歌ってたから、とりあえず最後まで弾くらしい。俺はさっき奏斗が言ってたように指揮者だったから歌の練習はほぼしてないけど、あれだけ練習したら耳に残ってるから、俺も一応歌っておく。合唱コンクールって、みんななんであんなに必死になるんだろうな。特に女子がすごい。

「で、何があったんだよ。めちゃくちゃ気になるんだけど」

 曲が終わるなり、鳴海が身を乗り出して聞いてきた。俺と奏斗は同時にため息をついて、奏斗が先に話しだす。

「ほんと大変だったんだよあの時は……。俺が伴奏で音哉が指揮者になったって言ったら、俺のお母さん、火がついちゃって。ほら、俺のお母さん、音楽の先生だから」
「合唱コンクールが終わるまで、学校帰りに毎日奏斗の家に通ってひたすら奏斗の伴奏かCDに合わせて腕振ってて、毎日腕が痛くてしぬかと思ったわ」
「学校の合唱コンクールでそこまでやるか? ってレベルでみっちりレッスンされてさー」
「家に帰るのが夜の十時過ぎだったかな」
「俺なんて朝練もやってたぞ……」
「お、おう……なんつーか、うん……お疲れ」

 他のクラスだって練習はたくさんしてたと思うけど、俺ら以上に頑張った奴はいないんじゃないかと思う。ちなみに土日も関係なかった。

 思い出しただけで腕が痛くなるけど、今となってはいい思い出だなって思えるようになったし、なんだかんだで楽しかったのかなぁ、とも思う。……またやりたいかと聞かれたら、俺も奏斗も首を横に振るけど。

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