▼ 響介と有牛
「ソロ、後輩にゆずったらダメかなぁ」
帰り道、俺が今日ずっと言いたかったことを口にすると、有牛はやっぱりねみたいな表情をした。
「俺はいいと思うけどね」
有牛ならそう言ってくれると思ってた。……けど、有牛ひとりがそう言ってくれたって、他の人も同じ考えじゃなきゃ、俺のわがままを押し通すなんてことはもちろんできないわけで。でも、うちはゆるいから、大会以外では1stやソロを一年生がやっても全然大丈夫で、だから小虎くんさえよければゆずっても大丈夫だとは思うんだけどね。トランペットなんかじゃんけんで全部決めてるくらいだから、かなり自由なんだよね。主に茅ヶ崎くん――連くんのせいだけど、日替わりで1stが違うくらいには。
「せっかくのソロだからもったいないとも思うけど。最近ホルンが美味しい曲ってなかったし」
「そうだっけ?」
まあ、ホルンは基本裏方に徹する楽器だからね。でも、ホルンが目立つ曲やソロがある曲だって、探せば結構ある。有名な曲だとアフリカンシンフォニーとか、木星とか、マードックからの最後の手紙とかね。ホルン好きだから、そういう曲を演奏することになったらうれしいけど、ソロをやりたいかといったらまたそれは別。
「でも、倉鹿野の音色ってソロ向きじゃないと思うんだよね。小虎くんのほうがソロに向いてると思う」
「うん、俺もそう思う」
俺が言うとソロを後輩に押し付けたいからそう言ってるんだろ、って思われそうだけど、俺は裏方に徹したりハモってるほうが好きだし、過去の自分のソロを聞くと、なんかぱっとしないなぁと思うし……。それに、昨日、ちょっと無理を言って小虎くんにソロのところを吹いてもらった時はいい音だなーって思ったから、小虎くんにやってもらいたいなぁ。
「サックスもそうだよね。茅ヶ崎くんはソロやらせると映えるけど、伴奏とかだと主張激しいし。芹沢くんはその逆で、芹沢くんの伴奏はやりやすそうだなって思うし」
「あー、確かに」
「ま、悪い音色じゃないんだけどね」
「俺は好きだよ」
同じ楽器でも、人それぞれ音色は違うし、それによる向き不向きもやっぱりある。茅ヶ崎くん――あ、今度は弟の弾くんね――はクラシックとポップスで音の切り替えができててすごいなと思うし、俺もそうなりたいけど、やっぱり難しいし、さすが茅ヶ崎くんだなぁと思う。