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 舞と奏斗と律

 今年のうちの課題曲は、Tの「マーチ・スカイブルー・ドリーム」に決まった。全部の課題曲をフルで聞いた時にあたしもいいなぁと思ってたけど、何度か合奏をやった後に、やっぱり違うのになったらよかったになと内心思うところがあった。嫌いではないんだけどね、何が引っかかったかというと、

「俺やっぱりUやりたかったなー。リットないのって難しい」

 ある日のパート練習で、あたしが思ってたことを猫柳がずばり言ってくれて、思わずがたっと椅子を鳴らしてしまった。みんなの視線が一斉にこっちに集まる。恥ずかしい。

「ご、ごめんごめん。あたしも同じこと考えてたからさ。聞いた時はいいなと思ったんだけど、何回か合奏したらちょっと、なんというか、うん」

 リット――リタルダンドがないマーチは他にもあるけど、大体のマーチはTrioの後、クライマックスに入る直前にリタルダンドがある。
 うちでドラムといえば猫柳だけど、確かに奴は上手いけど完璧にテンポキープができてるかといえばそうではなかったりする。といってもそれは時々だけど、崩れる時がある。……ま、時々なら仕方ないよね、とあたしは思うけど。

「ずっと同じテンポをキープするってのも難しいよね。できなきゃダメだけどさ」
「だからこれにしたんじゃないんですか? できるようになったら上手くなるだろうし」
「まあそうかもだけどねー」
「っていうか、菊池先輩、今回鍵盤じゃないですか」

 うちのパーカスがマーチをやる場合は、バスドラが私、スネアが猫柳、シンバルが兎田、ティンパニが百合根、鍵盤が狗井か、シンバルがあたしで狗井がバスドラで鍵盤が兎田ってのがいつものパターン。今回はティンパニがないからバスドラが百合根で、一発だけどソロがあるからシンバルは兎田。スネアはいつも通り猫柳で、鍵盤があたしと狗井に落ち着いた。うちで鍵盤得意なのが兎田だけだから、楽譜が配られてすぐの頃はあたしと兎田が逆だったんだよね。その時に大変だなぁと思ったわけ。

「そうだった。じゃ、頑張ってね」
「菊池先輩もシロフォン頑張ってくださいね。トリルは頑張りすぎなくてもいいですけど、まだちょっとぎこちないので」
「兎田に言われるとプレッシャーがすごい…。でも頑張るよ、うん……頑張る」

 三種の神器は後輩に任せるとして、あたしも頑張らないとな。鍵盤苦手とか言ってらんない。あたしも頑張らなきゃ。

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