▼ 理澄と山吹
「調辺高等学校、ゴールド金賞」
おれは中学一年生から吹コンに出てて、地区大会は三年間ゴールド金賞で地区代表に選ばれてるけど、それでもゴールド金賞って言われるとうれしくて、代表に選ばれるともっとうれしい。
金賞で代表に選ばれてみんなが晴れやかな表情をしている中、閉会式が終わってバスに向かう途中、梓だけは複雑な顔をしてて、その時は会場の空調が効きすぎてたから少し冷えたのかな? あ、それとも、金賞って言われた時に隣に座ってた羽柴先輩に抱き着かれてたから、そのことでも気にしてるのかな? くらいにしか思ってなかった。
「梓、具合でも悪いの?」
「いや……別に」
「ずっと複雑そうな顔してるけど、どうかした?」
「別にどうもしてないけど……」
学校に向かうバスの中でも、学校に着いてバスから降りてミーティングしてる最中もずっと同じ顔をしてたから、解散した後に理由を聞いてみる。もしかして、代表になったのがうれしくなかったりするのかなと思って聞いてみたら、それは全力で首を横に振った。そしてしばらく沈黙が続いた後、梓は足を止めて、理由を話してくれた。
「実はおれ、金賞で代表に選ばれたことないんだよ。中学の時、一回だけ県大会に行ったことあるけど、その時は銀賞だったから」
「そうなんだ?」
ややこしいんだけど、吹コンもアンコンも、金賞が一位で銀賞が二位ってわけじゃないし、金賞だから必ず次の大会に進めるわけじゃない。梓みたいに銀賞でも代表になることもあれば、金賞でも代表になれないこともある。後者の場合は通称ダメ金って呼ばれてる。
「うれしいの?」
「そりゃまあ……普通にうれしいけど」
「じゃあよろこべばいいじゃん。おれたち、金賞とったんだよ? 県大会行くんだよ? やったじゃん!」
「……そうだな。やっと実感わいてきた」
暗いからよく見えなかったけど、その時の梓の表情はたしかに笑ってて、おれもつられてもっとうれしくなった。