SSS置き場 | ナノ


 有牛と凜と成子と鳴海

 有牛先輩にアンサンブルに誘われて、突然すぎてびっくりしたけど、アンサンブル好きだし、一回やってみたいと思ってた曲だったから、恐れ多くも混ぜてもらうことにした。
 一回やってみたかった曲とはいえ、うちにはバストロがいないから4thをユーフォでやってってことだったから、俺は基本ベースに徹しなきゃいけないんだけど、それでもやりたい曲をやれるのはうれしい。

「よっし。それじゃ、一回合わせてみよっか」
「テンポどのくらいでやる?」
「そりゃインテンポでしょ」
「いやいや無理だから。わたしは運が良ければついていけるかもだけど、成子は絶対落ちるから」
「ごっごめんなさい!」

 ちなみに曲はというと、「はなまるぴっぴはよいこだけ」。1stが有牛先輩、2ndが羽柴先輩、3rdが成子、4thがユーフォで俺。
 有牛先輩はインテンポでいけるかもしれないけど、普通に考えてこの曲を最初からインテンポでやるのは無理だろ……。つーかトロンボーンでやるんだよな? スライドやばくね?

「俺も最初からインテンポはきついです……。音低いし」
「ほらー。最初だし、150くらいでいこうよ」
「最初だけインテンポでやってみようよ。一回だけでいいから」
「自分挑戦してみたいです!」
「えぇ……成子まで……」

 まあ一回だけだったら、俺も無理を承知でやってみたいかもしれない。俺だって運が良ければできちゃうかもしれないし、無謀なことに挑戦するのは嫌いじゃない。だってやってみれば意外にできるかもしんないし、きつくてひーひー言いながらやるのって楽しいじゃん?

 結局羽柴先輩が折れて、一回だけインテンポでやってみることになった。チューナーのメトロノームでテンポを確認して、有牛先輩がトロンボーンを構える。俺らは最初は手拍子。手拍子が終わった後に一小節で楽器を構えるのはさすがに無理だから叩くのは膝だけど。

 有牛先輩が足でカウントをとった後、好きなタイミングで吹き始める。それを合図に羽柴先輩、成子、俺が膝を叩き始めるんだけど、マジかよ! と思う暇もなく四小節、六小節が過ぎて、2nd、3rd、4thと音が重なっていって、すぐにAメロに突入。楽譜とにらめっこして必死に食らいつきながら、視界の端に三本のスライドがせわしなく動いているのが見えた。

「……やっぱり有牛って変態だわ」
「最高の褒め言葉をありがとう」

 吹き終わった後、しゃがみ込んだ羽柴先輩がぽつりともらした。俺らが床でぜえぜえいってんのに、なんでこの先輩は平気な顔して普通に立ってるんだろう。
 さっきだって、メトロノームを鳴らしながらやったわけじゃないし、俺らに引っ張られて途中遅くなったり揺れたりしたんだろうけど、それにしたってインテンポで最後までほぼノーミスで吹き切る有牛先輩は、褒め言葉的な意味で俺も変態だと思った。視界の端で見えてた、せわしなく動いてたスライドは、たぶん残像だったと思う。





海苔さんの楽譜を参考にさせていただきました。

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