SSS置き場 | ナノ


 パーカス

「狗井は練習してていいよ」

 ……と、菊池先輩に言われたものの、パーカスで俺だけ練習するのはなんか気が引けるっていうか。だからって先輩たちの手伝いができるわけでもないから、生返事をして楽譜を取りに行く。

 今日の練習はホールを借りての練習なんだけど、そこの打楽器がどれも古くて、先輩たちが大調整大会をしていた。俺は先輩たちと違って、高校から吹部に入ったから知識は全然だけど、さっきバスドラ叩いてみって言われて叩いた時に、なんだこりゃとは思った。音が変というか、余韻が気持ち悪いというか。

 マレットを変えたり、叩き方を変えるのは俺でもできるけど、チューニングっつーか、ねじをいじるのは怖くてできない。入部した時に簡単にティンパニとバスドラのチューニングの仕方は教えてもらったけど、ほんとにさらっとで、あとでちゃんと教えるって言ってたからあんまり頭には入ってない。

「とりあえず一周締めてみたけど……どうだろ?」
「あと半周くらい締めてみてもいいかもしれないですね。裏はやりました?」
「あ、裏まだだった」

 俺に手伝えることなんてないし、何もしないでぼーっと突っ立ってるくらなら練習すれば? とは自分でも思うけど、先輩たちの手際のよさについつい視線がそっちにいってしまう。ねじを巻くのにも順番があるらしく、ひとつねじを巻いたら迷わず次のねじに手が伸びて、ねじを締めるのも一瞬で終わる。全部のねじを巻き終わったら音の確認をするんだけど、二、三回叩いてちょっとした音の高低がすぐに分かるのもすごいとしか言えない。

 百合根先輩はティンパニのチューニングはすでに終わったのか、マレットを持ち替えて叩いてみては、何かが違うのか首を傾げている。学校のとは違うから音が違うのは当たり前だけど、それでも百合根先輩のサウンドだなっていうか、あー百合根先輩がやってるんだなってのは分かる。相変わらず、あの見た目と性格からあんな音が出てるとは思えない音で、でも迫力があってかっこいいなと思う。

「和希、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫?」
「へ? ……あ、はい、大丈夫です。すみません」
「ここ暑いもんね。気分悪かったりする?」
「いえ、そういうんじゃなくて、その……先輩たちの手際がよくて、つい見惚れてたっていうか、なんていうか……」

 理由は何にしろ、今までほとんど練習してなかったのは事実だから、怒られるだろうなと思ってたら、うさぎ先輩はにっこり笑って俺の肩を軽く叩いた。

「そのうち和希もできるようになるよ。というか、できるようになってもらわないと困るしね」

 ……そのうち俺もできるようになる、って先輩たちは言うけど、果たして本当にできるようになるんだろうか。

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