▼ 律×奏斗
「ねこやんかわいいかわいい」
「うさたんの方がかわいいよぉ」
言っておくが西高は女子校でも共学になったわけでもない。今でもれっきとした男子校だ。
たった今、音楽室で女子ばりのやりとりをしながらべたべたとしているそこの二人も、一人は身長も小さく顔も年齢より幼く見えるが西高にいる以上男だし、もう一人、小さい方に抱き着いているのも中性的な顔立ちに耳を覆い襟足もシャツの襟にかかるほど、男にしては長い髪をしている彼もまた男だ。同じクラスで、同じ部活の同じパートである以上仲はいいだろうが、彼らのスキンシップは友達もしくは親友という枠を越えているように思える。
同性しかいないという環境上、同性同士で付き合っている者も少なくはない。もしかして彼らもかと気になってクラスメイトが律に尋ねたことが少し前にあるが、「内緒」とかわいく言われておしまいだった。奏斗に至っては「そうだよ?」と笑いながら言っていたが、彼の性格を考えると冗談かもしれないし、真相は未だ分からない。
もともとクラスメイトや部員たちもややスキンシップが過剰なのは気になっていたが、仲がいいのは知っていたし、ふざけていたりそうでもなかったり、男同士で抱き合ったりする奴らは学校中にたくさんいるから気にしたりはしていなかった。「好きだよ」という台詞も二人にとっては挨拶と同程度で言えてしまう一言だ。
「うさたん」とかわいらしいあだ名を甘えた風に呼びながら抱き着きに行く奏斗。律の奏斗を呼ぶ声もどこか甘く柔らかい。
「うさたん大好きー」
「僕もねこやん大好き」
こんなやりとりですら、最近では日常茶飯事となり気にする人もほとんどいなくなった。