SSS置き場 | ナノ


 音哉と鳴海

「チューバってすげえよな。つーかおとやんってすげえ」

 ふと思い出したように鳴海が呟いた一言に、俺は思わずどきっとした。

「なんだよ急に」

 それを悟られたくなくて、つい冷静ぶってしまうというか、すぐには素直に受け取れないのが俺の悪いところだなぁと思う。

「いや昨日さ、おとやん部活来なかったじゃん?」
「あーうん」

 昨日は急に委員会が入って、先生はすぐ終わるとか言ってたのにむちゃくちゃ長引いて、やっと解放されて部活に行ったのは合奏が終わる十分前だった。ちょっとでも練習したかったのはやまやまだけど、十分じゃ楽器出してちょっと音出ししたらとっくに過ぎるだろうから、残りの時間は隅っこで見学してて、片付けだけ手伝った。

「課題曲がもう怖いのなんのって」
「怖いって?」
「なんつーか、綱渡りしてる感じっつーか、地に足がついてないというか、めちゃくちゃすかすかで、あ、いや、他の人の音が悪いとかじゃなくて、チューバがいないだけで、あんなに不安になるんだなって」

 俺が言うと自画自賛みたいだけど、鳴海が言うように、曲におけるチューバの存在感ってほんとすごいと思う。低音はメロディなんてめったにないし、基本的には伴奏ばっかりで目立たなくて、低音とパーカスがしっかりしてなきゃ曲は通らないとはよく聞くけど、ドラムがいればいいんじゃないの? と、いろいろあってひねくれてた時期にそれを奏斗にこぼしたら、次の日無言でCDを渡された。家に帰って聞いてみたら、どこかの楽団の演奏音源で、低音抜きで同じ曲を演奏したものがあって、低音がいないだけでこんなにも違うのかとびっくりした。低音楽器は結構あれど、全体的にみると人数はそんなにいないのに、伴奏が少し抜けただけであんなに違うとは。

「低音は大事だと思ってるけどさ、やっぱ人間ってなくなんないと分かんないのな」
「そんなもんだろ」
「っつーわけで、俺も頑張らないとな! 吹コンまであと三週間だし!」
「いや、ユーフォは低音じゃないから」
「そうやっていっつも俺だけ仲間外れにするのやめろよなー!」
「はいはいごめんごめん頑張れ頑張れ」
「もっと心から謝って!」

 だって、現に課題曲のイントロはメロディと同じことやってんじゃん、ユーフォ。





2016年度課題曲T「マーチ・スカイブルー・ドリーム」

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