▼ 奏斗と音哉(大学生)
「……疲れた」
俺がその一言をようやく吐き出せたのは、あれから約五時間後のこと。
「飯食ってくか?」
「……うん」
その二文字でさえ発するのが面倒なくらい、俺は疲れているらしい。
なんで俺がこんなに疲れてるかっていうと、来週に本番を控えてるから。今日はリハーサルだった。本番が近くなると練習時間が長くなるのは当たり前で、好きなこととはいえ、長時間やってるとやっぱり疲れるわけで。肉体的な疲れはご飯を食べるなり寝るなりすればとれるけど、精神的な疲れは一晩寝たらはいすっきり、とはさすがの俺でもならない時のが多い。
「俺、奏斗はプロには向いてないと思うんだよな」
「……やっぱり?」
あまりにも疲れすぎて、今日の運転は音哉だから寝ちゃえと思って目を閉じてたら、音哉から思わぬ発言が飛び出して目を開ける。
「だってお前、調子いい時はとことん調子乗るし、悪い時はとことん悪いだろ」
「そうなんだよ。調子いい時は調子に乗りたいし、ダメな時はやりたくないよね」
さすが幼馴染。俺のことよく見てるなぁ。
俺が疲れてる一番の理由は、今日の練習でさんざんプロになれだのなんだの言われまくったから。うさたんは俺がそういうの嫌だって分かってるから、今日みたいなところを見かけたらさりげなくフォローしてくれるけど、ドラムがステージの中央に配置されてて他の打楽器とは離れてたし、打楽器のステージ配置でちょくちょく打ち合わせしてていなかったからなぁ。うさたんに甘えてばっかりじゃダメなのは分かってるけどさ、俺馬鹿だから機転がきかなくて。
「ていうか聞こえてたんだ」
「あの一帯うるさかったからな」
音哉は人と話すのがあんまり好きじゃなくて、休憩時間もほぼずっとチューバ吹いてる。俺がプロになったらいいじゃんって言われまくってた時も音哉のチューバの音が聞こえてたから、てっきり聞こえてなかったかと思ってた。
「今日はおごってやるから、好きなもの好きなだけ食え」
「え、ほんと? やった! 何食べよっかなー」
「限度は考えろよ」
「分かってるって!」
とか言いながら、デザートにパフェ頼んでも文句は言うけどおごってくれたりするんだよね。ほんと、音哉って優しいよね。って本人に言ったら叩かれるんだけど。ツンデレか。