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 音哉と奏斗

 時間かかるから先に帰っていいよ、って奏斗に言われたけど、今日は俺の母さんが迎えに来てくれることになってて、先に帰ったら奏斗が帰れなくなるから待っていた。疲れたし腹減ったから早く帰りたいけど、それは奏斗もきっと同じ。

「ごめんごめん音哉! 遅くなった! 音哉のお母さんも待たせてごめんなさい!」
「お疲れ」
「いいのよー奏斗くん」

 二十分くらいしてようやくやってきた奏斗は、かなり急いできたらしく息を切らしていた。汗で髪の毛が顔に張りついている。そして車に乗り込むなり水筒を取り出して一気に飲み干す。

「あー疲れた! ほんと疲れた!」
「何やってたんだ?」
「配置の確認と、楽器の割り振りに関するいろいろと、あと借り物のコンガが音低かったからいじってきた」
「……パーカスって大変だよな」

 明日、中学生と合同演奏で吹奏楽祭に出る。合同練習自体は先々週からやってたんだけど、ホール練習は今日が初めてで、先々週と先週は中学校の多目的ホールにぎっちぎちに詰め込まれてやってたから、当然いろいろと違うわけで。打楽器は実際に並べてみると思い描いてる通りにいかないことが多かったりする。なんで知ってるかって、奏斗からよく聞かされてるから。

「練習よりも本番よりも、片付けとか、配置考える時とか、楽器の割り振りが疲れるんだよな……」
「だろうな。お前ほとんど練習してなかったしな」
「でも、今回は出番が多かったり重要なパートは全部中学生にやってもらうから本番はめっちゃ楽」
「そこはうらやましい」

 自分の楽器の片付けが終わるとパーカスの片付けの手伝いに回るけど、パーカスの片付けは体力使うし、時間もかかるしで大変だ。本番が終わったからといってひと息なんてつけない。配置はよく分かんないけど、割り振りは奏斗がよく頭を悩ませてるから大変そうだなーといつも思う。奏斗、二年だけどパートリーダーだからな。

「あたしにはよく分からないけど、吹奏楽っていろいろ大変なのね。お疲れ様」
「俺たちも大変ですけど、親も大変じゃないですか? 朝は早いし、夜も遅いし、今日みたいに学校以外の場所での練習もあったりするし……」
「そうねぇ……音哉と奏斗くんがあんまり楽しそうだから、そんなに大変だとは思わないかな。むしろ応援したくなる」

 びっくりして顔を上げると、ミラーに映る母さんの顔は笑顔で、ふと視線を感じて隣を見ると、奏斗はにやにや笑ってて、俺はたぶん変な顔をしてたと思う。

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