▼ 音哉と奏斗
「奏斗、あのアンケートなんて書く?」
「ん? あのアンケートって……あぁ、定演のやつね」
今日の部活で、アンケートが配られた。定演に関するアンケートで、その中にやりたい曲を書くところがあって、俺は悩んでいた。最低一曲は書かないといけないらしい。書いたからといって必ずしも選ばれるとは限らないけど悩む。
「俺なんでもいいんだよな……。どうせチューバ目立たないし」
「サックスとかと比べると少ないけど、チューバのソロがある曲って結構あるよ?」
「別に目立たなくていいよ」
みんな自分の楽器のソロがあったり、目立つ曲を書くんだろうけど、目立つのそんなに好きじゃないしな。チューバソロがある曲をあんまり知らないってのもあるけど、別に目立ちたいとは思わない。それがチューバだし。もしトランペットになってたりしたら、トランペットが目立つ曲ばっかり書いてたりしたんだろうか。
「お前は宝島とか書くの?」
「宝島いいね! アゴゴやりたい! ……けど、俺も別に目立たなくていいかなぁ」
「なんで?」
てっきり奏斗もパーカスが騒げる曲を書くんだと思ってた。パーカスが騒いでると楽しそうだなーって思うし、一曲くらいは俺も欲しい。
「だってパーカスって常にソロじゃん。だからソロ欲しいとはあんまり……まああったらうれしいとは思うけど」
「ソロあっても目立たないもんな」
「そうそう」
パーカスのソロが目立たないのは、管楽器のソロはその場で立って吹いたり、ステージの前に出てピンスポ浴びながら吹いたりするけど、パーカスは基本立ちっぱなしかドラムは立つなんてできないし、前に出るのも楽器を持ちながら移動なんてできないからで、そもそもソロをやってることに気付かれない時もある。sing sing singやった時は、ドラムソロが長いからライト当ててくれたこともあったけど。まあ、逆に言えば、常に目立ってるとも言える。
ていうか、言われてみればパーカスって常にソロだな。やっぱりパーカスってすげぇ。大合同だろうと、大編成だろうと、その楽器をやってるのはひとりしかいないってすごい。
「あ、でも、オーメンズやりたいかも。うさたんがチャイムやりたいって言ってたし」
「オーメンズなつかしいな」
「やったよねー。それに俺もドラムやりたいしね」
そういえば、中学でオーメンズやった時、ドラム奏斗じゃなかったっけ。あ、そうだそうだノリノリでタンバリン叩いてたんだった。
「んじゃ俺もオーメンズって書いとこ」
「人の真似すんなよな!」
「二人で書けばやる確率上がるかもしれないだろ」
「あ、そっか! じゃよろしく!」
……やっぱり奏斗って馬鹿だよな。
※オーメンズ=オーメンズ・オブ・ラブ
やりたい人が多くても選ばれるとは限らない