SSS置き場 | ナノ


 凜と有牛

「ねー有牛ー、男ってどうせ巨乳が好きなんでしょ?」
「どうしたの急に」

 普段、下ネタやセクハラ発言、その他猥談を発するのは有牛のほうからで、今回は珍しく凜から振ってきたので有牛は少々動揺する。一年生の頃の凜は過剰に反応していたが、今ではすっかり慣れて動揺しなくなったとはいえ、自分からそういった話をすることはなかった。

「なんとなくっていうか、常日頃思ってることっていうか……」
「その質問って、肯定しても否定しても、責められるか怒られるか、とにかく理不尽な反応が返ってくるやつだよね」
「……そーかも」

 この質問はたいてい、首を縦に振ったら「どうせ男は巨乳が好きなんでしょ」と言われるだろうし、横に振ったら「貧乳が好きとかロリコンなの?」と言われるので、音楽になじみのない人に「ユーフォニウムってどんな楽器?」と純粋に聞かれた時と同じくらい男にとっては困る。

「で、羽柴は俺にどっちであってほしいの?」
「どっちでもいーよ。それは有牛の好みだし」
「てっきり控えめが好きって言ってほしいのかと思ってたんだけど」
「悪かったね!」

 思わず椅子を倒すほど勢いよく立ち上がって憤ったのは、凜は控えめな胸の持ち主だから。中学生の時に腕が長いからという理由でトロンボーンにされたせいで腕と、世代平均よりも大きい身長と、もう育つ気配がない控えめな胸が凜のコンプレックスだった。特に胸は、トランペットのいいものをお持ちの後輩がいるので、嫌でも刺激されるのだ。

「俺は男だからよく分からないけどさ、胸も大きくても小さくてもいいところも悪いところも同じくらいあるでしょ。男もそうだし。ないものねだりしてしまう気持ちは分かるけど」
「そーだけどー、わたしからしてみればぜいたくな悩みだなーって感じなんだよねー……うらんだってどうにもならないけどさー」

 着たい服が着られないだとか、服がワンサイズ大きくなってしまうだとか、肩が凝るだとか、胸が大きいからならではの悩みは時々耳にするが、凜にとっては嫌味に聞こえてしまう。異性の視線が気になるという点だけは、その視線に込められた意味は違えど、凜も分からなくはないが。

「なんの慰めにもならないだろうけど、俺は彼女にするんだったら貧乳のほうが落ち着くよ」
「なんで? おっきいと興奮しちゃうから?」
「それもあるけど、自分以外の男にラッキースケベしてしまう可能性が低いからね。よっぽど距離が近くないと当たらないでしょ? そこは安心する」

 今まで凜が見たり聞いたりした中で、いちばん説得力があって凜は黙り込む。凜の胸なら、かなり密着しないと当たっている感触はしないだろう。有牛に好意を寄せているわけではないが、希望が見出せた気がして少し嬉しくなる。

「でも、胸元が開いてる服着てる時に少し屈むと見えちゃうよね。それは危ないな」
「……もうこの話やめにしない?」
「羽柴から振ってきたんじゃん」
「そーだけど!」

 凜がストップをかけたのは、これ以上話していると、有牛のことだからすごいところまで話が進みそうだから。

(そもそも、一応男子と女子でこんな話してる時点でどうかって感じだけどさ)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -