▼ 拓人と美琴と冴苗
「新宮くんってかっこいいよね」
「……新宮ってオーボエの? 一年の?」
「うん。一年生の新宮カノンくん」
「まあ確かに顔はかっこいいかもだけど……背も高いし、イタリア人だっけ? だし」
盗み聞きするつもりはなかったんだが、合奏の合間の休憩時間に楽譜の整理をしてたら花樹と榎並の会話が聞こえて、思わず手が止まった。
榎並の言う通り、俺も顔は整ってると思う(外国人だからっていう補正が大きいんだろう)けど、あいつは中身があれだからな……。学年もパートも違うから花樹のことはよく分からないが、面食いではなさそうだし、何をもってかっこいいと思ったのかは気になる。
「それもあるけど、オーボエってすごく難しい楽器なんだよね? 奏斗くんが世界一難しい楽器って言ってたし」
「そうなの? 世界一かは分かんないけど、難しい楽器だとはあたしも聞いたことある」
「私は弦バスしかやったことないから管楽器ができるだけですごいと思うし、リードも自分で作ってるんでしょ? すごくない? かっこよくない?」
なるほど、そういう理由か。確かにオーボエは世界一難しい木管楽器としてギネスに載っているくらいだし、本当に難しい楽器だから俺もそれはすごいと思ってる。あとリードを自作できることも。……そこはな、そこだけな。
「あたしもトランペットしかできないし、木管できる奴すごいなーって思うけどさ、でもあいつ女に興味ないんでしょ? 手出すのも男子ばっかだし」
そうなんだよな。見た目がよくても、楽器が上手くても、そこが大いにマイナスなんだよな、あいつ……。榎並の言い方だと大きな誤解を招くだろうから一応説明しておくと、長身で顔がいいせいでイタリアにいた頃異性にモテまくったらしく、それで女には飽きて男にちょっかいを出し始めたというなんともくだらない理由からなので、本気ではない……はず。
「だからこそ、真剣に音楽に向き合ってるところがかっこいいんだよ。新宮くん、演奏してる時はすごく真面目じゃない」
「あー、ギャップってやつね……。分からなくはないけど、普段がああだからなぁ……うーん……」
花樹の言うことも榎並の言うことも分かる。黙って楽器だけ吹いてればいいんだけどな、本当に。いくら見た目がよくても中身があれじゃあな……。それでもかっこいいからいいって人は中にはいるのかもしれないけど。