SSS置き場 | ナノ


 弾と芹沢

「有亜くん、持ってないこと前提で聞くけど」
「えっ何?」
「日焼け止めとか持ってたりしない?」

 なんだ、びっくりした。てっきり諭吉さんの有無でも聞かれるのかと一瞬。弾くんはそんな子じゃないの分かってるけどね、冗談冗談。

「持ってるけど、肌に合うかな」
「なんで持ってるの?」
「いやいや……持ってない? って聞いてきたの弾くんじゃん」
「そうだけど……男子で持ってる人って貴重じゃない?」

 日焼け止め持ってる? って聞いてきたことは、弾くんも普段は持ってるってことだよね、たぶん。吹部は室内で活動する部活だから、コンクールが近くなって土日も夏休みも返上して毎日学校に来てても縁がないものだけど、それにしたって弾くんは白い。今みたいに外に向かってると、ほっぺたとか、耳とか、腕とか、さらされた肌が陽に透けそうでちょっと怖くなる。

「日焼けしてシャワー浴びるとぴりぴりして痛いじゃない。あれが嫌で」
「日焼けすると赤くなるからじゃないんだ。もしくは黒くなるの嫌とか」

 おれの名前は有機物の「有」に亜流の「亜」って書いてありあって読む。女みたいな名前だなって思ったでしょ。もしかしておれっ娘? とか思ったりした? 残念だけどおれはこれでもれっきとした男で、名前に関してコンプレックスはそれほどないけど、サックス一筋の弾くんは、高校に入ってサックスに転向したおれのことが気にくわないからあえておれのことを下の名前で呼ぶ。おれ的には「ありあくん」まで呼ばれたらほぼ間違いなく自分のことだろうし、さっきも言ったように今はコンプレックスに思ってないからきいてないんだけどね。名前が女みたいだからってからかわれるのもどうってことはない。

「弾くんも同じ理由?」
「まあそんな感じ。シャワー浴びると痛いの嫌だからって気持ちは分かるけど、有亜くんは白いというよりも青白いから、少し日焼けしたほうがいいよ。ゾンビみたいだし」
「弾くんのほうが白いと思うけどな。陽射しが強くなってくると、外でサックス吹いてる時なんか透けそうだし」
「人を幽霊みたいに言わないでよね」

 人をゾンビとか言っといて怒るんだから、やっぱり弾くんは自分勝手だ。そのくせおれの日焼け止めはちゃっかり借りるんだ。

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