SSS置き場 | ナノ


 音哉と奏斗

 大会が近くなって部活が終わる時間が遅くなると、帰りのバスには誰も乗ってなくて、バスの中は運転手を除いて俺と奏斗だけだったりする。
 たまに、時間が合えば俺の母さんが仕事帰りに迎えに来てくれたり、奏斗のお母さんが来てくれる時もあるけど、バスに揺られて奏斗と二人で帰るほうが好きだ。奏斗のお母さんだと小さい頃からお世話になってて家族同然とはいえ、やっぱり気は遣うから。

「ここ低音遅れてない?」
「あー……なんていうか、こう、後ろ後ろに引っ張られてる感じあるな」
「付点八分音符と十六分音符って間延びしちゃうよね、付点八分音符のところで」
「そこで遅れてるよな。あとやってる時も思ってたけどピッチひっどいな……」

 バスで帰るほうが好きな理由はもうひとつあって、それはこうして奏斗とその日の練習の反省会ができるから。録音した音源を聞きながら、お互いのいいところダメなところを言い合う。奏斗も容赦なく言うし、俺も容赦なく言う。この時期になるとビデオに撮ってそれを見てパートごとに意見を言い合うのを時々やるけど、遠慮なく言えって言われても思ったことを全部言うのはやっぱり無理。俺にはできない。

「ていうか全体的に高いよね。低音に限らず管楽器全員」
「そこは仕方ないよな」
「まあね。冷房入るの六月になってからだもんね。……あ、ここのクレッシェンド足りないかも。ていうかユーフォ! ユーフォもうちょっと頑張れよここ! 見せ場じゃん!」
「疲れてたんだろうけど明日鳴海に言っとく」

 奏斗は指揮者になれるんじゃねーのって思うくらいにいろいろなことに気が付く。全部突っ込んでたら時間がもったいないからって理由で全部は言われないし、自分じゃ気付かないことも多いから、少しでも気になったところは言ってもらえると助かる。奏斗もパーカスは合奏の時にあれこれ言われたり公開処刑されることがそんなにないから、言ってもらえると助かるらしい。自分じゃ気付かないことってたくさんあるからどんどん言ってほしいって奏斗も言ってたし、奏斗と一対一ならなんでも言える。

「あ、スネアすっころんでやんの」
「そこは和希がマレット落としたからちょっと動揺したんだよ……。音哉だって今音外したじゃん! そのあと一拍音抜けたし次の音のピッチひどすぎだかんね!」
「今のは鳴海が悪いんだって。鳴海が休み数え間違えて入って『あっ』みたいな顔したから笑いそうになって」
「言い訳しないの!」
「それはお前もだろ」

 くだらない言い争いをして笑ってたら、ミラー越しに運転手さんの顔が笑ってるのが見えて恥ずかしかったけど、やっぱりこの時間が好きだなと笑いながら思った。

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