SSS置き場 | ナノ


 理澄と和希

「そういえば、おれずっと疑問に思ってたことがあるんだけど」
「……何?」

 掲示板に貼られてたポスターが視界に入って、ふと思い出したことがあって足を止めると、ワンテンポ遅れて狗井も気だるそうに足を止めた。こちらに振り返った狗井の顔はものすごいしかめっ面をしていて、思わず笑いそうになる。もうすぐ六月になるとはいえ、まだ五月だっていうのに差し込む西日は暑いし、時々入ってくる風も生ぬるくて気持ちいいとは言い難いから、直射日光ががんがん当たるこの廊下をさっさと通り過ぎたい気持ちは分かる。といってもこれから帰るんだから、外に出ても一緒なんだけど。

「吹部のポスターって、誰がデザインしてるのかなって」
「さあ?」

 狗井はいかにも興味がなさそうに適当にそう答えると、おもむろにまた歩き出した。狗井を追いかけながらも、途中までおれの目はポスターに留まったままだった。

「気にならないの?」
「別に……すげーなとは思うけど、誰が作ってるとかはどうでも」

 いつだったか、梓にも同じことを聞いたら似たような答えが返ってきた。
 そっか、みんな大して気にならないんだ……。おれはめちゃくちゃ気になるけどなぁ。

「ってことは、狗井も知らないんだよね?」
「知らねー。先生とかじゃねーの?」

 もしかして作った人を知ってるから? と思ったけど、そうじゃなくてなんとなくほっとする。もしおれだけ知らなかったりしたら恥ずかしいし。

 さっきのポスター、センスよく配置された楽器は細かく描き込まれてて、よく見ると手描きっぽい感じもして、もしあれを全部手描きで描いてるとしたらすごすぎる。今でも音楽室の前に貼ってある部員募集のポスターには、サックスとトランペットを持った男子と女子が描かれてたし、あれは誰かが描いたに違いないから今回も手描きなのかもしれない。部員の誰かにしろ、美術部や漫研の人に頼んだにしろ、吹部で「ポスターすごいね」とか話題に上ることはあっても、それを誰が描いたかまでは話はいかなかった。

「そんなに気になるんだったら部長にでも聞いてみれば?」
「この前聞いてみたんだけど、なんかはぐらかされたんだよねー」
「知られたらまずいんじゃね?」
「何がまずいの?」
「それは知らねーけど」

 あきらかに熊谷部長は知っている風な言い方だった。そりゃ部長だから知ってるんだろうけどさ。……もしかして、熊谷部長が作ってるとか?
 誰にせよ、その人には名前を明かしたくない事情があるんだろうけど、おれはすごいと思うし、おれの周りの評判もいいから、もし恥ずかしくて名乗りたくないとかだったら、何も恥ずかしがることないのにな、と思う。もし貼り替えしてるところに偶然居合わせたら、もらって部屋に飾っておきたいくらいには、おれは好きだな。

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