SSS置き場 | ナノ


 カノンと奏斗

「オレの顔に何かついてますか?」
「へっ? あ、ああいや、なんでもないよ、ごめん」

 くるりとブロンドの髪をなびかせながらこちらに振り返ったカノンはかすかに笑みを浮かべていて、奏斗は思わずどきりと胸が跳ねるのを感じた。自分がもし女だったらほぼ確実に落ちていただろうなとぼんやり頭の隅で考える。

「それともオレに見惚れてました?」
「……そういうことにしといて」

 そんな気障で歯の浮くような台詞も、彼にはイタリアの血が入っているおかげで自然に聞こえるから不思議だ。おまけにカノンはナルシストらしいが、実際整った容姿をしているのであまりマイナス要素にはなっていないように思える。
 否定しても肯定してもカノンの反応に大差はないので、適当にそう返しておく。相手がカノンでなければ眉をハの字にして顔を赤らめ体をくねくねさせながら寄り添うところだが、カノンが相手では何をされるか分からないので、さすがの奏斗でも今回は自重しておいた。

「実は、オーボエ貸してって言おうと思ったんだけど、そういえば新宮のオーボエって私物だったなって」
「オーボエ吹けるの?」
「まあ一応……。吹けるっていうかなんていうか、ちょっと触ったことがあるだけだけど」

 そういえば、休憩時間にたびたび奏斗は管楽器を触っていたなとカノンは思い出す。カノンが見たことあるのはユーフォとチューバで、それも一瞬だったから、その時は中学生か小学生の時にでもやっていたのだろうくらいに思っていた。

「うーん、困ったな……。君の音色は聞いてみたいけど、あまり人には貸したくなくて」
「だよね、結構いい値段するやつだしね。だからいいよ、大丈夫」

 カノンのオーボエはいわゆるMy楽器というやつで、彼の私物だった。いいお値段がしたものらしく、野外演奏の時は学校所有の少々年季が入ったオーボエを使うか、クラリネットに持ち替えていた。楽器そのものにくわえてダブルリードもシングルリードと比べると値段が張るので、そう簡単に人に貸せるものではない。

「そうだ、オレの使ったリードでよければ貸してあげなくもないよ」
「……つまり間接キスってこと?」
「そういうこと。……ダメかな?」

 自然な動作で壁に追い詰められて、壁ドンなんてされたら思わず頷いてしまいそうになる。同性でもうっかりときめいてしまうくらい、カノンの顔立ちは整っていた。ブロンドの髪を耳にかけながら、甘い笑みを浮かべて吐息交じりの甘い声で囁きかけられたら、奏斗だってさながら少女漫画のヒロインのような反応をしてしまう。

 ちなみにカノンは同性が好きというわけではなく、イタリアにいた頃に異性にはさんざんモテて飽きたという、全世界の同性を敵に回すような理由から、こうして男を相手に遊ぶのが趣味になったらしい。あくまでも反応を楽しむだけであって、本気ではないと本人は言っている。

「いや、いいよ……リード割ったりしたら悪いし……大切なものだしさ」
「そう? 残念だな。君ならきっと素敵な音色を奏でると思ったんだけどな……」
「あ、ありがとう……?」
「いつか聞かせてね、君の音色」

 ウインクをして、ひらりと手を振って去っていくカノンは相変わらず気障だったし、それでもその整った容姿からはなぜか目が離せなかった。

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