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 芹沢と弾

 テストの点数で勝負しようぜ、なんて約束を交わしていなくても、友人より点数が低いと気になってしまうもの。自分が一番で優れていないと気にくわない面倒な性格をしている弾は、みんなの想像通りそのタイプだった。

「ねえ、本当に気にしてない?」

 速足で音楽室に向かっている弾の後ろを金魚の糞のようについて歩きながら、おそるおそるといった様子で芹沢は弾に声を掛ける。
 しかし弾がどれだけ急ごうとも、身長差のすごい二人だから、長身の芹沢はすぐに追いつくのだが。弾の一歩と芹沢の一歩には結構な差がある。

「気にしてないってば。しつこいよ」

 数秒意味深な間を空けて返ってきた答えは早口で、不機嫌さがにじみ出ていた。

 今日返却されたテストで、珍しく弾が芹沢の点数を下回った。返却された時は弾が勝っていたのだが、配られた解答と答案用紙を照らし合わせてみると不正解なのに丸がついているところが一箇所あり、それを先生に持って行ってバツにしてもらったため、それで弾のほうが芹沢より数点だが下回ったのだ。点数が上がるのならともかく、下がるのだったら申告しなければばれまいと黙っている人もいるだろう。それなのに正直に言いに行くなんて弾は律儀だよなと、後ろの席の芹沢はぼんやり思っていた。

 今日は合奏の予定があるから弾は部活に行くつもりなのだろうし、芹沢としてはこの状態のまま一緒に練習をするのは嫌だ。だからできれば今、もしくは合奏が始まるまでには弾の機嫌を少しでもなおしておきたい。弾にいつも以上にとげとげした嫌味を言われるのは慣れたのでなんとも思わないが、合っていないと先生に注意されて何度も同じフレーズをやらされるのは面倒だ。

「ファミレスでお子様ランチおごってあげるから機嫌なおしてよ」
「だからそういうのやめてってば!」

 ためしに少しからかってみると足を止めて振り返りながら弾は叫んだ。目を丸くした芹沢と目が合って、弾はあっと小さく声を上げる。ふい、と慌てて顔を背けて唇を噛む。

「まったく悔しくなかったわけじゃないけど、本当に気にしてないから。……でも、今日のお昼サンドイッチで済ませたから、お腹は空いてる」
「じゃあ帰りになんか食べて帰ろっか。弾くんは何が食べたい?」
「……ドリアかパスタ」
「そのくらいならおごるよ。この間リード貸してもらったの返してなかったし」

 次第に歩調もゆっくりになり、隣に並んでみてもなんの反応もしないところからして、弾の不機嫌はなおったようだ。ほっとして思わず笑顔になった芹沢を見たらまたご機嫌ななめに戻ってしまう可能性もあったが、幸いにも弾は気付いていないようだった。

「まあ、テストでは一教科だけ負けたけど、サックスはぼくが勝ってるから、あんまり気にしてない」
「うん。弾くんには絶対追いつけないなって隣でいつも思ってるよ」

 お望みであろう台詞を返せば、隣を歩く弾の口角があからさまに吊り上がったのが芹沢の視界の端に見えた。

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