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 和希と奏斗と律(大学生)

 定期演奏会当日は、毎回寝不足なのになぜか目はこれでもかとさえている。寝不足といっても、遠足の前日に楽しみで寝られない小学生のようで恥ずかしいが、大きな何かがある前日はなかなか寝付けない体質なのはよく分かっているので、普段より早めに布団に入るようにしている。そのおかげで、少なくとも奏斗のように明け方になってようやく寝られたなんてことはなく、充分に睡眠はとれてはいると思う。

「じゃ、軽く通して休憩にしますか」

 時計を見ながら指揮者が言い終えるか終えないうちに、パーカッションの人たちが動き出す。

 定期演奏会はクラシックを中心とした一部、ポップスを中心とした二部といったように複数の部から構成されている。
 午前中のリハーサルも終盤になると、三部、二部、一部と逆行して練習する。内容によっては順番が前後する場合もあるが、必ず最後に一部の練習をする。管楽器の編成はほとんど変わらないが、打楽器の編成は大幅に変わるためで、リハーサルが終わると同時に第一部が演奏できる、つまり昼休みが終わったらすぐに開演できる状態にしておくためだ。

「和希ぃ、緊張してるー?」
「……まあ、はい、少し」

 リハーサルを終えて楽屋に戻ろうと歩き出した時、ひょっこりと隣にやってきたのは奏斗。奏斗は高校時代の吹奏楽部の先輩で、和希がこの楽団に入ろうと思ったのは奏斗がいたからという理由が大きかった。中学時代にはまったく縁のなかった吹奏楽部に入ろうと思ったきっかけは奏斗のドラムがかっこよくて憧れたからで、今でもそれは変わらない。

「まさか和希が鍵盤得意になってたなんて知らなかったよ」
「いや、得意ってわけでは……」

 奏斗とは反対側の和希の隣にこれまたひょっこりやってきたのは律。彼もまた、吹奏楽部時代和希の先輩だった人だ。
 第二部の曲は鍵盤を使用する曲が多く、鍵盤を得意とする律ひとりでは手が回らないので、その分を和希がやることになった。和希が望んだわけではなく、他の人は得意な楽器が明確にあって、和希にはこれといってそれがないので消去法でそうなったというわけだ。鍵盤の得意な律の隣は緊張するが、消去法でそうなったとはいえやると言ったからには頑張って練習した。

「またこの三人で定演に乗ることになるなんてね」
「ほんとほんと。びっくりだよね」
「俺もびっくりしてます」

 ――でも、先輩たちと一緒に演奏できるの、楽しみです。

 とは、恥ずかしくて口には出せなかった。

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