▼ 昼間と朝比奈と三日月
誕生日が二月二十九日だって言うと、四年に一度しか祝ってもらえなくてかわいそうだね、って言われるけど、歳をとるごとにむしろ感謝するようになったからこんな日に生まれてよかったと思うようになった。……けど、中には三月一日、もしくは二十八日に祝ってくれるありがた迷惑な奴もいるから、一概には喜べない。
「四年ぶりの誕生日おめでとう、昼間」
「ハッピーバースデーゆうちゃん!」
「……サンキュ」
朝比奈と三日月、あと家族に祝ってもらうのは嬉しいんだけど、
「で、あれどうするの?」
「どうするって言われても……」
……見なかったことにしよう。俺は何も見なかった――ことにしたいんだけど、あんなにいればドア一枚隔てたところで、嫌でも声は聞こえてしまう。朝比奈と同じで俺も正直女子の黄色い声は苦手だ。
「今日は運悪く月曜日だかんねー仕方ないよねー」
「平日も休日も関係ないだろ。今日が日曜日だったとしても、どうせ明日こうなるんだから」
四年に一度しかない二月二十九日に生まれてよかったって思う理由は、誕生日にはチャンスとばかりに女子が押しかけるからなんだけど、さっきも言ったようになければないで前後にプレゼントを渡しに来る奴もいるから意味がないといえば意味がない。
「朝比奈はいいよな」
「ひなちゃんは誕生日お盆だしね。それでも押しかけてくる子はいるだろうけど、比較的平和っしょ?」
「……まあな。これと比べたら」
ほんと、朝比奈が羨ましい。夏休みだし、お盆は帰省する人も多いからこんなに家に押しかけたりはしないだろうな。もう少し遅く、春休みに生まれてたらよかったと思ったけど、家に押しかけられたりポストにぎゅうぎゅうプレゼント詰め込まれるのもそれはそれで困るな。
「しゃーねーな、オレがなんとかしてきてやるよ。オレも早くカラオケ行きてーしな」
「珍しく優しいなお前」
「ちょっとーひなちゃーん? 珍しくは余計じゃない? オレはいつも優しいよ?」
ドアの向こうの女子は三日月がどうにかしてくれるみたいで、朝比奈と顔を見合わせて同時にため息をこぼした。俺にははっきり言う勇気もないし、かといって三日月みたいにどうにか上手くやり過ごしたりもできない。三日月はこういう時は頼りになるよな。
誕生日祝いにカラオケに連れてってやるって言われてたんだけど、このままだと行けなくなるんじゃと不安だった。俺たち三人で行動する以上、どこに行っても目立つのはもう諦めるけど、とりあえずはカラオケに行って個室に入ってしまえば大丈夫だろう。早く思いっきり歌いたいし、途中で買って行く予定のケーキも食いたい。ただそれだけなんだけどな。