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 弾と芹沢

「……芹沢くんってさ」
「……うん?」

 芹沢の反応が一瞬遅れたのは、いつも弾は芹沢のことを下の名前で呼ぶから。下の名前がコンプレックスだと打ち明けたら、人の弱みが大好物である弾はここぞとばかりに芹沢を下の名前――有亜で呼ぶようになった。

「ありあって名前、コンプレックスなんでしょ?」
「まあね」
「なのに、下の名前で呼ばれても怒ったりしないよね」

 弾の他にも、からかいの意味を込めて芹沢を下の名前で呼ぶ人間は多数いる。弾が有亜と呼び始めた時は一度だけ「やめてよ」とやんわり言われたが、それ以降は何も言わず普通に反応しているし、他の人に対してもしかり。怒ることはエネルギーを使うから疲れるじゃない、といつだったか芹沢が言っていたが、コンプレックスの低身長をいじられると顔には出さないものの内心ではかなりむっとしてしまう弾にとっては理解できない。

「昔は下の名前で呼ばれるのが嫌で嫌で仕方なかったけど、今となっては聞き間違うことがまずないから嫌いじゃないよ、この名前」
「まあ確かにそうそういる名前じゃないしね、ありあなんて。それに『くん』までつけられたらほぼ間違いなく君のことだろうね」
「だよね」

 なるほど、そういう手があったかと弾は感心する。聞き間違いではないが、部活で茅ヶ崎と呼ばれると自分なのか兄なのか分からないので、それは少し羨ましいかもしれない。だからといって自分がありあという名前にはなりたいとは思わないが。

「長所を短所、短所を長所に言いかえられるように、コンプレックスだって逆手に取れるでしょ」
「……この手は何かな? 有亜くん?」
「この身長だって、必ずどこかで役に立つ時がくるよってこと」

 芹沢の自分の頭を撫でる手つきは小さな子どもをあやす時のそれに似ていて、仕返しにわき腹に手刀を入れたらちょうどいいところに入ったらしく、それからしばらく芹沢は呻いていた。

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