SSS置き場 | ナノ


 美琴と冴苗

「もうすぐひな祭りだねー」

 美琴に言われて冴苗はひな祭りの存在を思い出す。

「さなの家のひな人形はどんなの?」
「うちにはないよ」
「ないの?」
「だってうち貧乏だし。千佳子とうららが折り紙で作ったやつ飾ってる」
「そっかぁ……」

 冴苗の家には立派なひな人形がなく、いまいちぴんとこない行事だった。三月三日といえば、妹たちにせがまれてちらし寿司を作るくらいで、そのちらし寿司を作るのは兄弟が手伝ってくれるとはいえ冴苗だし、女の子のお祭りだからといってはしゃいだり、楽しみに思うようなものではなかった。
 今でもひな人形は欲しいと思っているが、本来ならひとりにひとつずつが理想らしく、貧乏な上に姉妹が三人もいれば諦めるしかない。

「じゃあ、うちにおいでよ。うち、七段飾りのひな人形あるから、千佳子ちゃんとうららちゃん連れて見に来なよ。あ、ついでにケーキも一緒に食べよ?」
「えっ七段飾り!? すごくない?」
「なんかねー、親戚のおじさんが私が生まれてすごく喜んだみたいで、それで買ってくれたんだって」
「へー。あたしも見てみたいなぁ。でも、千佳子はいいけどうららはまだちっちゃいし、壊したりしたら大変だから遠慮しとくよ」

 お雛様とお内裏様だけのひな人形でさえ結構な値段がするのに、七段飾りなんてものすごい値段がするのだろう。それをひな人形にはしゃいだうららがうっかり壊したりなんてしたら、榎並家には到底弁償できまい。

「見るだけなら大丈夫だよ。お邪魔じゃなければ、うちでひな人形見た後にさなの家に行ってもいい? そしてみんなでごちそう食べない? せっかくのひな祭りなんだし」
「うちは大丈夫だよ。男兄弟がいてもいいならだけど」
「やった。ひな祭りは女の子のお祭りだけど、ごちそうはみんなで食べたほうが美味しいもん。みんなで食べようよ。ちらし寿司作るのは私も手伝うし、ケーキ作って持っていくね」
「……うん!」

 笑顔の冴苗につられて、美琴も満面の笑みを浮かべる。

 女の子のお祭りのはずなのに、今まで楽しみに思ったことがなかったひな祭り。七段飾りのひな人形ももちろん楽しみだけれど、目先の楽しみはやはりごちそうだった。

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