▼ 舞と凜
凜はいつも黒いニーハイソックスを履いている。制服のスカートから伸びる長い足にそれはとてもよく似合っていて、洋服のカタログでモデルさんが着ていると素敵で欲しくなるように、あたしも履いてみたいとこっそり思っていた。
けど、制服に合わせるのは似合う似合わない以前にスカートを短くする勇気がないから無理で、めったに着る機会がない私服も、パーカーもしくはこの時期だとセーターにジーパンばっかりだから、いきなりホットパンツにニーソなんてスタイルにチャレンジする勇気は、あたしにはちょっとなかった。
「ニーソねぇ」
その時のあたしは、進路関係でいろいろあったのと間近にテストが迫ってて、ストレスが溜まってたから、思ってることが無意識に口に出てしまったらしい。
「舞、ニーソ履きたいの?」
「へ? な、なんで?」
「今ニーソって言ってたじゃん」
「……言ってた?」
「言ってた」
口に出してた記憶はないけど、口に出てたなんて恥ずかしい。かぁっと熱くなった顔を隠すように頭を抱えるあたしを凜はまったく気にする様子はなく、会話しながら器用にワークを埋めていた。
「履きたいなら履けば?」
「んー……まあ履いてみたいとは思うけど、凜みたいに足長くないし、それにあたしの私服知ってるでしょ?」
「知ってるけど、それが?」
「普段あんな格好しかしてないから勇気が出ないっていうか……似合う似合わないとかそういう問題以前に」
だって、ニーソを履くなら絶対領域だっけ? 太ももが見えるホットパンツかミニスカートのどっちかでしょ? 夏でもそんなに短いの履いたりしないから、足が短いとか太いとか以前にハードルが高い。
「でも、履きたいなら今のうちに履いといたほうがいいと思うよ。大人になったらミニスカにニーソなんて格好できないじゃん」
「た、確かに……。若い子にしかできないよね。でも、凜は足が長いから似合うんだと思うんだよね……ニーソもミニスカも」
「……あのさ、前から思ってたんだけど、舞は自分が服に合わせるって発想がないよね。かわいい服が着たいなら自分がかわいくなればいいんだよ。そういう努力をすれば」
……目からうろこだった。
確かに、自分にはそういう考えはまったくなかった。というより、頑張ったところで、街中で見かける素敵なファッションが似合うような女性にはなれないと諦めていた。それとこれとは話が別だよね。頑張ってみれば、少しはましになるかもしれないよね。あとは、自分が胸を張るだけ。
「それに、着てみたら案外いけるかもよ? 大人になったらできないと思ってるんだったら、なおさら今やるべきでしょ。一回やってみて、やっぱりダメだなとか思ったらその時はその時でいいじゃん」
「……そうだね。やらなかった後悔より、やった後悔って言うしね」
「そうと決まれば、テストが終わったらやることはひとつだよね」
「うん。凜はセンスいいから、凜にまかせていい?」
「まっかしといて! わたしが舞をかわいくしたげるから!」
約束ひとつで面倒なテストもよし頑張ろう、なんて思えるから、あたしは現金だ。……でも、やっぱりテストは面倒だから、早く終わらないかな。