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 舞と奏斗

「猫柳、ちょっと」
「……な、なんですか?」

 舞に名前を呼ばれて返事をしようとしたら、奏斗が振り向いた瞬間舞が辺りをきょろきょろ気にし出して奏斗は返事に一瞬詰まった。

「あたしって、打楽器の中で何に一番向いてると思う?」
「何にって……?」
「ドラムとか、鍵盤とか、得意なのっていうかやる人って自然と固定されてくるものじゃない?」
「そうらしいですね」

 パート内でドラムを担当する人、鍵盤を担当する人、ティンパニを担当する人が自然と決まっていくのはどこの学校でも同じらしい。ここ、西高吹奏楽部のパーカッションも例外ではなく、ドラムが奏斗、鍵盤が律、ティンパニが鈴々依とそれぞれの得意分野ごとに大体決まっていた。

「でも、あたしってどれが得意ってわけでもないし、しいて言うなら小物が好きだから小物やることが多かったんだけど、小物も別に得意ってわけじゃないしさ」

 しかし舞はよくいえばオールマイティ、悪くいえば器用貧乏で、これといって何が得意でもなかった。しいて言うならと挙げた小物も、好きというだけで奏斗たちのように特化しているとはいえない。

 パーカッションは先ほどあげたドラム、鍵盤、ティンパニ、小物など全ての楽器を指すのだし、いろいろなそれをそつなく扱えることにこしたことはないのだろうが、中学の時もみんなそれぞれ何かしらに特化していたのでそれが羨ましかったし、なんでもできますと言う割にはどれも大して自信はないし、舞にとっては悩みの種だった。

「じゃあ小物だと思いますけど」
「じゃあって何じゃあって。そんな投げやりに答えないでよ……。こっちは真剣に悩んでるのに」
「好きこそものの上手なれって言うじゃないですか。俺はドラムが好きだからドラムやりたいって言ってるだけだし、うさたんだって同じですよ?」

 奏斗の言うことはもっともだと舞も思う。舞にも小物のおもしろさに目覚めて、楽器講習会で教えてもらえないからと自分であれこれ調べて、ほぼ独学だがかなり研究していた時期がある。ただでさえ少ない休みをに遠くの本屋まで足を伸ばして、漫画を何冊も買える値段のする教則本を購入するだなんて、好きでなければできなかったことだろう。アルバイトもできなかったし、今と比べるとお小遣いの額も少なかった。

 しかし舞の場合は好きこそというより、下手の横好きといったほうが正しいような気がしなくもない。ひねくれてしまうのは、それぞれに特化してなおかつ知識も技術も実力もあるのが後輩に三人も、しかも同時に入ってきてしまったからだろうか。

「ていうか、パーカスでなんでもできる人ってなかなかいないと思いますけど。俺鍵盤苦手だし、うさたんはドラム苦手って言ってるし。あと百合根はティンパニと皮ものしかできないらしいし」
「あたしからすれば何かに特化してるほうがすごいと思うけどなぁ」
「隣の芝は青いってやつですよね。俺からしたらなんでもできて、苦手なのは特にないですって言えるの、めっちゃ羨ましいですもん」
「あんたに褒められると嫌味か! って思っちゃうけど、今回は褒め言葉として受け取っておくよ。ありがと」

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