SSS置き場 | ナノ


 連と弾

大会や定期演奏会が近くない限り、休日の部活で一番最初に登校するのは、響介か連と弾のどちらかだった。
今日はまだ響介は来ていないだろうとなんとなく思った弾は、大きな欠伸をしながらのろのろと歩いている連を置いて、鍵を借りに職員室へ急いだ。

「お、今日は茅ヶ崎くんが一番乗りか。早いよねー。何時に起きてるの?」
「今日はいつもより早く目が覚めたので……。いつもならこんなに早起きしないです」

弾が思った通り、今日は自分たちが一番乗りだった。鍵を渡してくれた顧問の観田先生も眠そうで、毎日お疲れ様です、と弾は心の中で呟く。弾が早く登校するのは楽器に早く触りたいからという理由だが、もう少し寝ていたいと思う日もある。しかし先生はそれよりも早く学校に来なければならないのだから、他人事ながら大変だなと思う。

連が音楽室に着く頃には弾が鍵を開けていて、準備室も開いていた。しかし楽器ケースは見当たらない。そして弾はといえば、なぜかピアノの前に座っていた。

「そういや弾きゅんってピアノ弾けたっけ」
「独学だけどね」

適当な和音を鳴らし、弾は椅子を引く。木製の床にわずかに傷がついた。
弾の目の前にある楽譜は、今練習中の曲のピアノ譜だった。準備室にあるスコアから引っ張り出してきたらしい。弾が今日、早く学校に来たのはこのためだった。ピアノを弾きたいから、そしてそれを連以外誰にも見られたくないから。

この曲は前奏がピアノとフルートしかないため、ピアノの代わりにグロッケンがそれをやっていた。楽譜通りピアノを入れたいとコンサートマスターの千鳥と指揮の源内先生が言っていたが、西高吹奏楽部でピアノが弾ける人はパートの変更が難しい人ばかりで今回は諦めた。

「ピアノできる人いないー? って聞かれた時に手ぇ上げればよかったのに」
「独学だし、使い物にならないから」
「でも最初だけっしょ? ピアノ欲しいの」
「まあこれ、そんなに難しくはないけど」

使い物になるレベルではない、と弾は言うが、連からすれば充分なレベルだと思う。少なくとも、慰問演奏やお祭りなどで完成度を気にせずに演奏する分には、時々間違えながらも初見でほぼ最後まで弾けるレベルなら充分だろう。

ピアノを弾く弾の表情は真剣で、連はピアノにもたれかかりながらじっと見つめていた。

「弾きゅんってほんとサックス好きだよねー」
「なに急に」

突然連が脈絡のないことを言い出したものだから、弾はピアノを弾く手を止めた。どういうこと? と顔をしかめる弾に、連は無言で笑顔を向けた。

「この曲、最初ピアノしかないのか」

楽譜が配られた時、千鳥が呟いていたのを聞いて、弾は動きを止めて視線をそちらに向けた。
うちの部員でピアノが弾ける人は、パートの変更が難しい人ばかりだろうから、それなら自分が立候補しようか。前奏がピアノしかないのなら、目立つだろうから。そう考えてすぐ、渡されたばかりの楽譜にソロの文字を見つけた弾は、すぐに前言撤回した。ピアノが弾けることをアピールするより、ソロで目立ちたいほうが勝った。

(れんれんにはばれてるんだろうなぁ)

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