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 響介と熊谷

部活の相談だったり、部活に関係ない相談だったり、ただ駄弁りに行くだけだったり。熊谷の周りには常に人がいる。俺も熊谷に相談に乗ってもらったことが何度かあるから、気持ちはすごく分かる。聞き上手なんだよね、熊谷って。……あと、遊びに行くとお茶とお茶菓子を出してくれるから、それが目的の時もあったりする。だって熊谷がいれてくれるお茶っておいしいんだもん。

「や、熊谷。突然ごめんね」
「おや、倉鹿野くん。どうしたのかね?」
「用事はないんだけど、今日なんか調子出なくて……。息抜きというより、サボりみたいなものかな」
「そういう時ってあるよねぇ。そうそう、今日は美味しいせんべいを持ってきたからよかったら食べて行くといい。口に合わなかったら申し訳ないけどね」
「ありがとう」

今日はなんとなく調子が出ないのは本当。……だけど、熊谷のいれるお茶が飲みたかったっていう理由もある。
熊谷がお茶をいれてくれている間、お言葉に甘えて差し出されたせんべいを選ぶ。どれもおいしそうで迷うな。ざらめかえびで悩んで、えびにした。迷ってるとすかさず「遠慮しないでどっちも食べていいよ」って言ってくれるけど、それは悪いから。

せんべいの袋を開けると同時に出された緑茶は、きれいな緑色をしていた。紙コップじゃなくてわざわざ湯呑で出してくれるのがなんだか申し訳ない。
来客用(?)の湯呑はクマの顔が描かれてて、失礼だけどそれがあんまりかわいいデザインだから熊谷らしくないなとお茶を出されるたびに思ってしまう。

「熊谷はなんでクラリネットにしたの? 理由ってあったりする?」
「大きいものが好きだったからねぇ。ロボットとか、怪獣とか、働く車とか。多分、その影響でバスクラリネットに惹かれたんだと思うんだよねぇ」

なんとなくそんな質問をしてみたら、意外な答えが返ってきた。俺も小さい頃そういうのが好きだったから気持ちは分かる。けど、熊谷って大人っぽいから、俺と同じような子どもだったなんて想像つかなくて。時々同い年っていうことが信じられなくて、よく年上なんじゃないかって思うし、幼かった頃なんてなかったんじゃないかと思ったりする。

「バスクラリネットはベルが下についてるから文字通り曲を支えてるんだよって話を聞いて、ますます好きになったかな」
「なるほど。確かに言われてみるとそうだよね。チューバはベルが上向いてるしね」

熊谷の話はおもしろくて、話してると楽しくて、お茶もお茶菓子もおいしくて、気が付いたらここに来てもう少しで一時間が経ちそうだったから、慌ててお礼を言って練習に戻った。

「またいつでもおいで」

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