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 朔楽と鴨部

今日渡された楽譜は、五線譜の上にさらに線が引かれて、そこにようやく音符の玉が乗っていた。フルートの楽譜ではよくあることだけれど、五線譜の意味を見失いそうで、朔楽はコピーされた音符を指でなぞった。

指定されたテンポよりもややゆっくりのテンポで、音を、リズムを確認するように、間違えたり、つまずいたらそこからまたやり直して、とりあえず一度最後まで吹いてみる。

「フルートの楽譜って、五線譜の意味あんねやろかって不安にならん?」
「あ、なります……」

自分と同じことを考えていた人がいると、少しだけ嬉しくなる。

フルートは高音を受け持つ楽器だということは知っていたけれど、楽譜で見るとこんなに高い音を出すとは思ってもいなくて、はじめて楽譜を見た時には驚いた。フルートを吹き始めた頃は、こんな高音はそもそも当たらなくて、やっと当たったかと思えば自分の息の音ばかりがして肝心の音はほとんど聞こえず、自分の納得のいく音になるまで時間がかかった。

この曲で高音が続く箇所を、もう一度さらってみる。先ほどよりもスムーズに、本来のテンポに近いテンポでさらりと吹くことができて、朔楽の顔に笑みが浮かんだ。数年前の自分だったらこうはいかなかった。テンポをさらに落としても指が回らなくて途中でつまずくか、そもそも音が当たらなかったかもしれない。

「鳩村くんの高音ってきれいよなぁ。きれいな高音出すコツ教えてや」
「えっ? そ、そうですか……? 鴨部先輩のほうがきれいだと思いますけど……」
「鳩村くんにそう言われるとお世辞でも嬉しいわー」
「おっお世辞じゃないです!」

ぶんぶんと大げさに首を横に振って否定する朔楽を見て、鴨部は愉快そうに笑う。

鴨部の吹くフルートは、どんな音でもしっかりとした響きを持っていて、音がよく鳴るポイントに息を当てるのが上手いのだと朔楽は分析している。どんな時も安定していて、だからこそなんとなく不安を覚えるような、そんな鴨部の音を隣で聞くのが、朔楽は好きだった。

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