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 音哉×奏斗(大学生)

目が覚めたら、かすかにミントのにおいがした。

「……まぶし」
「目、覚めたのか? 珍しい」

オレンジ色の眩しい光と、隣から聞こえた音哉の声に、今は演奏会の帰りだということを思い出す。車内に漂うミントのにおいは、音哉が眠気覚ましに噛んでいるガムのにおい。

大きな演奏会の帰りはいつも音哉が運転していた。中学生の時から変わらず、本番を終えると俺がぶっ倒れるからだ。リハーサルの前の日の夜も、本番の前の日の夜も、何歳になってもなかなか眠れない。寝不足と、たまった疲れと、達成感とで意識が飛ぶらしい。運転してる最中にそうなったら大変だから。音哉も疲れてるところ申し訳ないけど、助かってる。

「まだ家着いてないの? 遅くない? 誰か送ってたの?」
「送れるわけねーだろ。なんか知らないけど混んでたんだよ」
「……そっか。今日ってなんかあったっけ」
「さあ?」

どうやら俺はまだ寝ぼけてるらしい。この車は結構大きいやつだけど、後ろのシートには音哉のチューバと俺のドラムセットが積んであるから、俺と音哉でもう無理なんだよね。チューバだけだったら片方のシートを倒してそこにチューバを乗せて、俺と音哉の他にもうひとり乗れるけど、本番近くなると俺もマイドラムセットを持っていくから人が乗れる隙間なんてまったくなくなる。

だから送ってあげられないんだ、ごめんね、ってなるのは心苦しいけど、ちょっとだけラッキーって思ったりもする。音哉の隣は俺だけのもので、運転してる音哉の真剣な横顔も俺だけのもので、しかもその隣で安心しながら寝られるのも俺だけの特権で、わがままなのは分かってるけどずっと独り占めしてたい。

「着いたら起こして」
「また寝るのかよ。打ち上げ置いてくぞ」
「そういう意地悪やめてよね!」
「はいはい冗談冗談」

こんな些細な会話で音哉が笑顔を見せるの、他の人はきっと知らないし、知らなくていい。

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