SSS置き場 | ナノ


 律と鳴海

「今日もユーフォ持って帰るの?」
「おう! 持ち帰って風呂に入れてやろうと思って。今日は違うやつ」

そう言われてよく見れば、今日持ち帰ろうとしているユーフォのケースにはキーホルダーがついていなかった。学校の楽器はほとんどが黒いハードケースに入っていてぱっと見じゃ見分けがつかないから、目印としてキーホルダーをつけておいたりする。ちなみになるみんのはお茶のおまけについてきたうさぎのキーホルダー。

「今日なるみんの家に泊まりに行ってもいい? ユーフォと一緒にお風呂に入るところ見てみたい」
「えっ!? ど、どうだろう……いいとは思うけど、夕飯つまんねーもんしかないし、布団もせんべい布団しか出せないと思う……」
「冗談だよ」

楽器をどんなふうにお風呂に入れるのか、ちょっと見てみたくて。それができるのは金管だけだからね。
あ、楽器をお風呂に入れるとか、一緒にお風呂に入るって言うけど、つまり楽器を洗うってことね。本当に一緒にお風呂に入る人も中にはいるのかもしれないけど。

「さー、こいつからはどんなヘドロが出てくっかな。怖いけどちょっと楽しみ」
「よくヘドロが出てきたって聞くけど、ヘドロって何?」
「唾液とか、食いかすとか、グリスとかオイルとか、サビとか、そういういろんなものがヘドロになるんだってさ」

グリスやオイル、サビは仕方ないとして、食べた後に歯磨きとジュースを飲んだ後にうがいをするのを徹底しててもやっぱり溜まっちゃうんだね。打楽器はそういうの無縁だから。お昼が近くなって空腹と戦ってる管楽器を尻目にグミ食べたりしててごめんね。

「楽器と一緒にお風呂に入るのって、なんか羨ましいよね。楽器と仲良くなれそうというか」
「いや……湯船に一緒に入るのはやめたほうがいいぜ……」
「お湯につけるのってよくないの?」
「ただのお湯なら問題ないだろうけど……。俺さ、中学ん時に初めてユーフォを持ち帰って家の風呂で洗って、テンション上がって一緒に風呂に入ったんだけどさ……ふと見たら、クモの死骸がぷかーって浮いてて」
「そ、それは……大変だったね」

隣のなるみんにつられて僕もちょっとぞくっとした。そんなのが楽器から出てきたらびっくりするし怖い。打楽器にも小さな虫が中に入り込んじゃったりすることはあるけど、管楽器は自分が普段吹いてるからね……。

「それ以来クモがダメになったんだよな……。でも、虫の死骸はまだいいほうだと思う。俺は見たことないけど、もっとすごいものが出てきたって話も聞くし」

なるみんが聞いた“もっとすごいもの”がなんなのか、ずっとパーカスの僕には想像がつかないけど、なるみんの表情からしてきっと僕の想像を超えるものすごいものなんだと思う。冬なのに怖い話を聞いてしまった。

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