SSS置き場 | ナノ


 奏斗と音哉

「やっぱり、ドラムがやりたいからパーカスに来る人がほとんどだよなー」

パーカッションは、ドラムにティンパニ、シンバルにタンバリンやトライアングルなどの小物、マリンバやグロッケンなどいわゆる鍵盤など、今挙げたすべての楽器を担当するパートだ。しかし人によって得意不得意はあるので、西高のパーカスでいうと、ドラム系は奏斗、鍵盤系は律といったようにだんだんと担当する人間が決まってくる。

「俺もドラムやりたいからパーカスにしたし、人のこと言えないけどさ」
「低音よりマシじゃねーの。低音なんかそもそも人来ないし」
「低音は違う楽器やりたかったけどなれなかったから……って人多いよね。それと比べたらドラム目的でも人が来るだけマシなのかも」
「ドラムってかっこいいしな。俺もあんな風に叩いてみたいとは思ったことある」
「んじゃやる? 俺教えるよ?」
「遠慮しとく」

前にも同じやりとりをして、無理矢理ドラムを叩かされたことがある。かれこれ三十分ほど格闘させられたが、基本中の基本であるエイトビートすらままならなかった。手と足をばらばらに動かすなんて人間業じゃない、と幼馴染がドラムを自在に叩く様子を見て思っていたが、実際やってみて本当に人間業ではないことを実感した。その後奏斗が右手でハイハット、左手でスネア、右足でバスドラに加えて、左足でハイハットをオープンにしたりクローズにしたりなんてことを始めた時は、これが音楽で言う変態なのかと音哉が意味を理解した瞬間でもある。

「でも、確かにドラムはかっこいいけど、小物もおもしろいし、ティンパニ叩ける奴も鍵盤できる奴もかっこいいよね」
「低音だって目立たないけどないとすっかすかだし、わけ分かんないフレーズが合奏で曲にはまる瞬間は気持ちいいぞ」
「ベースとリズムって楽しいよねー」

トランペットやサックスなどの花形楽器に憧れてやってみたいと思う気持ちも分かるが、やってみれば低音もパーカッションも楽しいのにもったいない、というのが二人の本音だ。

「あ、けどさ、音哉がイケメンだからそれ目当てで見学に来る女子も多いし、低音に憧れる子も多いらしいし、音哉が吹部に入ってチューバやってる以上、低音の将来は明るいんじゃない?」
「正直女子は微妙」
「……鳴海が聞いたら怒るよ?」

奏斗が笑いながら言うと、音哉はおもむろに背後を確認した。女の子が好きだが容姿と自身のキャラのせいでなかなか進展できない鳴海が、もし今の話を聞いていたらのちのち面倒だから。とはいえ、ここは音哉の部屋で、鳴海は呼んでいないからいるわけがない。そこに立っていたらホラーだ。

「肺活量とか安定感とか考えると、チューバは男のほうがいい」
「体鍛えたらがっしりした奴らがいっぱい来てくれるんじゃない?」
「絶対やらねー」

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -