SSS置き場 | ナノ


 山吹と凜

2016クリコンのその後



「羽柴先輩、人生初のソロはどうでした?」

無事にコンサートが終わり、パイプ椅子を片づけている最中に背後から名前を呼んだのは山吹だった。

「緊張したけど、いい経験になったかな」
「……それはよかったですね」

珍しくまともに答えが返ってきて、山吹は一瞬反応に困った。いつもだったら売り言葉に買い言葉、揚げ足を取ってすぐに喧嘩になる。

「梓もソロやればよかったのに。おもしろそうだから梓にやらせようぜー、みたいなことになったんでしょ?」
「一年がソロとか聞いたことないし、やるわけないじゃん」

と、口では言いながらも、ソロを持ちかけられた時、内心では少しだけそわそわしていたのは内緒だ。山吹も今までにソロを担当した経験がないので、目立つことがあまり好きではないという性格はこの際はさておき、憧れはある。

「あんたならそう言うと思った。うちの中学ではそうだったかもしれないけど、他の学校ではあったりするじゃん。中学ではこうだったからを基準にするのいい加減やめなよ。あいかわらず石頭なんだから」
「そりゃ一年がソロやるとこだってあるけど、珍しいだろ」
「まー、一年がソロやる場合って先輩よりも上手い場合だよね。基本的に」

だからあんたには無理だろうね、とでも言いたげに凜はにやにやと笑う。こればかりは言い返せなくて、山吹はしかめっ面で押し黙る。楽器は違うが、キャリアの差からか凜にはあと一歩及ばないなと思うことが時々ある。

「でも、梓のソロ、聞きたかったな」
「……な、なんでだよ」
「だって、梓と一緒に部活できるのって半年くらいしかないじゃん。一年がトップはるのってそうそうないし、あんたが1stやるようになる頃には、わたしはとっくに引退してるし」

顔を合わせれば喧嘩しかしなくて、早くいなくなればいいのになんて思ったりもしたが、いざ引退して本当にいなくなると、本音を言えばどこか寂しかった。吹奏楽部は引退が一番遅いとはいえ、それでも三年の凜と一年の山吹が一緒に部活できる時間はおよそ半年しかなかった。密度は濃かったが、思えば一緒に乗った本番はそれほどない。冬に行われるアンサンブルコンテストには一緒に乗れなくて、もし凜と一緒に出ることになったらどうなっていたのか、ぼんやりと考えることが多々あった。

「一年がソロとかありえないですよ! っていう梓が本当にソロをまかされたらどうなるのか気になるしね」
「どうせそんなことだろうと思ったよ。少なくとも、先輩が卒業するまでそういうことはないので残念でしたね」
「卒業しても定演とかは聞きに来る予定だったけど、来年再来年梓より上手い子が入ってくる可能性はあるし、確かにあんたがソロやることはなさそうだね」

少しだけ何かに期待していた自分に嫌気がさしながら、いつもと変わらぬやりとりに山吹は内心安心していた。

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