つまらない

非常につまらない


急に部活が休みになり、前々から約束もしていなかったのに彼女の家に来た此方にも非があるとは思う。

しかし、だ。

電話した時に「暇だから構わない、寧ろ嬉しい」と言っていたのにも関わらず、この俺の放置っ振りはなんなんだ。


しかも話しかけると「煩い、聞こえないでしょ!」と返される。

今もコントローラーを手に、TV画面に釘付けだ。

時折「きゃー!○○格好良い!」等言っているのは聞かなかったことにしたい。(いや、後でお仕置きすべきか)

既に気づいた者もいるだろう。



俺の彼女はオタクだ。



所謂、腐女子。
更に言えば歴女でもある。


今やってるゲームも戦国時代を模した物で、キャラクターが美形揃い。

今、最も嵌ってるらしい。


彼女の趣味をどうこう言うつもりはない。

しかし、俺がいる時くらい止めてくれても良いんじゃないだろうか。

また「煩い」と言われるのを覚悟しつつ、声をかけてみる。


「名前」

「よし、拠点制圧!」

「名前」

「あれ、馬どこ行った?」

「名前」

「もう何、蓮二」


三度目の肩を叩きながらの呼び掛けにやっと答えたと思ったらこれだ。


「…暇なのだが」

「本は」

「持ってきてない」

「デー…」

「…タも昨夜まとめ終わっている」

「……」

「名前」

「…蓮二も一緒にゲームする?って言っても、これあまり好きじゃないんでしょ……って、痛っ!何すんのこいつ!」


モブらしき者に突かれたらしく、その反撃の為に意識をゲームに戻されてしまった。

俺は一つ溜め息を吐くと名前の後ろに座り背後から抱きしめた。

そして、名前の耳元に口を寄せる。


「名前」

「え、ちょっと蓮二?」

「俺といる時くらい、ゲームはやめてくれないか」

「あの…れ、蓮二さ…ん?」

「少々妬けるぞ。こんな男ばかりを構って…俺では不服か?」

「ち、違うよ!ていうか、耳…っ」


耳元で喋られるのが擽ったいのか、恥ずかしいのか頬を赤く染め、何とか抜け出そうと身を捩る名前は可愛らしい。

が、これは俺をほったらかしにした事への、ほんの小さな仕返しだ。腕に少し力を入れた。


「違う?それにしては、やたらこの男を使用しているようだが…」

「そ、それは…その…」

「何だ?」

「声…が」

「声?」


うん、と頷く彼女に画面に映るキャラクターを見る。

…口の聞き方があまりよろしくない事しかわからない。


「名前、口が悪いことしかわからないのだが」

「そんなんじゃないよ」


もう一回ちゃんと聞いてみてと言うから大人しく耳を傾ける。

やはり、わからない。


「…名前」

「本当にわからないの?」

「ああ」


困惑したような表情で問いかけてきた名前は、少し間を置いてから恥ずかしげに口を開いた。


「蓮二の声に似てない?」

「は…」


俺の声に似てるだと?

元来、自分の声は他人が聞いてるものと違って聞こえるという。
気付かなかったのはそのせいか?

第一俺の声に似てるのが何だと言うのか。

何も言わないままの俺に名前が話しだした。


「蓮二、普段部活や生徒会で忙しいでしょ?夜とか応援行けない時とかに蓮二の声が聞きたい時にやってるの」

「なら何故今やってるんだ」

「疲れてると思ったから…昨日、遅くまでデータ整理とかしてたんじゃないかって…」


だから少しでも休んで欲しかった。目の下に少し隈が出来てるよ?と、彼女は続けた。

思わず笑みが零れた。


「その割りに夢中にやってて、俺が休めてないのに気付いてなかったようだが?」

「う…」

「大体、俺はお前と話しがしたいし声が聞きたいから、こうして来たんだ。俺にとっては休息の一つなんだがな」

「うう…ごめん、なさい」

「それに部活中は無理だが、夜なら一言でも電話くらいするさ」


すっかり落ち込んでしまった彼女の頭を撫でながら諭すように言う。

すると、おずおずと上を向いて俺に視線を合わせてきた。


「本当に?」

「ああ」

「毎日、しちゃうかもよ?」

「構わない」

「でも疲れてるだろうし」

「名前と話せば疲れも消える」

「……」

「……」

「…ぷっ、蓮二それクサい!」

「ふっ、だが事実だ」


俺のクサい台詞に爆笑する名前と一緒に俺も笑う。

一通り笑いが治まると名前は「なら今日はもういいや」と、ゲームとTVのスイッチを切って笑顔で俺に向き直った。


「さて蓮二さん、今日は何の話からしましょうか?」

「そうだな…」


その後、他愛もない話をして実にのんびりと過ごした、そんな休日。





後日、「俺がいるから十分だろう」と言ったら「元々このキャラも好きだったんだけど、蓮二の声に似てるって気付いてからもっと好きになったの」と、言われ、俺としたことが閉口してしまった。

因みに精市や弦一郎に例のキャラの声を聞かせてみたが、やはり似ているらしい。


更に余談だが、この前名前の家に行った時、机の上にゲームのキャラの衣装を着た、俺やテニス部レギュラー達と思われる絵があったのは見なかったことにしようと思う。



それでもやめられない



20100309

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