夢を見るの。


そこは辺り一面真っ白で

とても曖昧で

まるで浮いているような

漂っているような

そんな、感覚

そして其処には、もう一人…誰かがいる


そんな夢を何度も見る。

はっきりとしないのに不思議と嫌な感じはしない。



その夢は最初私は一人で、しばらくしたら何か気配を感じた。

その気配の方へ向かったんだけど、大分近付いたんじゃないかと思われるところで目が覚めてしまった。


次の日は姿を捉えることが出来たんだけど曖昧で顔がわからない。

わかったのは髪は黒で短く、身長は貞治と同じ位だから180cm程の多分男の子。


その次の日は話をした。

何を話しているかわからないというのに私も彼も楽しそうだった。


またその次の日、彼は私の頭をそっと撫でてきた。

それが気持ち良くて、なんだか懐かしく感じて思わず笑った。


その日から彼は手を繋いできたり頬を撫でてきたりした。

そのどれにも嫌悪感はなかった。

私は確かに『嬉しい』と感じていたと思う。


昨日、彼に抱きしめられた。

吃驚して一瞬、体を強ばらせてしまっただけで突き放しはしなかった。


日に日に彼の行動を求める気持ちが大きくなってるのが自分でもわかった。

だけど、顔も名前も何も…

実在するのかもわからないのに。

彼への想いが膨らんでいく傍ら、私は何か言い表せない不安に駆られている。



「それは…」

「……どうせ私は夢に見た男の子に憧れる子供で…」

「俺じゃないのか」

「貞治はない」

「即答とは…酷いな」

「いや、だってありえない」

「何故だ、髪の色も身長も俺に当てはまるじゃないか」

「少なからずウニ頭じゃなかったし雰囲気だってもっと落ち着いてた」

「本当に酷い言い草だな…」

「とにかく違うの!」


青学には彼の人に当てはまる男子がいなさそうなので、データマンで幼馴染みである貞治に聞けばわかるんじゃないかと部活が休みである日曜日の今日、貞治の家にお邪魔して話を聞いてもらってるけど、無駄だったかもしれない。


「なぁ名前」

「何?」

「懐かしい、んだよな?」

「うん」

「初恋の奴じゃないのか?」

「初、恋…」

「そう」

「……」

「蓮二」

「!」

「だろ?」


出された名前に明らかに動揺した私に貞治がにやりと笑う。

そう、私の初恋は蓮二だ。
夢の彼が蓮二であれば良いのにと思う程に私は未だに蓮二が好きだ。

でもきっと蓮二なんだと思う。
夢だから都合の良いようにしてくれたんだと思うんだ。


「名前、蓮二は今、おかっぱを切り身長も181cmだ」

「……」


思考に沈む私に重ねて貞治は言う。

そんなことは、わかってるんだ。
蓮二が神奈川に、立海に行った事、容姿だって雑誌で見た。

でも、すっかり大人っぽくなった蓮二を見たら私の事なんて忘れてるんじゃないかって思ったら怖かった。


「蓮二は変わらないよ」

「でも…」

「変わりやしない」


そんな私の思考を読んだように言う貞治は真剣な表情で…


「大体蓮二が名前を忘れる筈がないさ」


私に聞こえない位の声で呟いた貞治は「よいしょ」と立ち上がった。


「貞治?」

「俺の予測ではそろそろ…」

と、貞治が言いかけたところでインターホンが鳴った。


「データ通りだ」

「へ…?」


何が「データ通り」なのか聞く間もなく、お客さんを迎えに部屋を出る貞治。

もしかして、もしかしなくても誰かと会う予定があったのかも…貞治に悪いことしちゃったな。なんて思ってたら貞治が戻って来た。


「名前、君にお客さんだよ」

「…私?」

「そう、ほら入りなよ」

「ああ、邪魔をする」


聞こえた声は心地の良いテノール

細い線ながらもしっかりした体躯

黒髪の長身


「名前」


ああ、彼だ。

見た目も声も変わってて大人っぽくなってるけど蓮二だ。

優しく私の名を呼ぶ彼は貞治の言った通り、昔となんら変わりはない。


「れん、じ…」

「久方振り、だな」


そう言って微笑む蓮二を見て、何故だか私は泣いてしまった。


「泣き止んでもらえないだろうか」

「だ、てっ…」

「蓮二、名前は今も泣き虫だから仕方ない」

「貞治うるさいっ」

「ははっ」

「うー」

「はいはい、俺はちょっとコンビニに行ってくるから二人で留守番頼むよ」

「ああ」

「ちょっと…」


そう言い残して貞治は私の呼びかけも無視して行ってしまった。

今、部屋には蓮二と私の二人しかいない。(貞治のことだから何か仕掛けてるかもだけど)


「…名前?」


呆けてる私に蓮二が声をかけた。


ああそうだ、聞かなきゃ。

何で此処にいるのか。

言わなきゃ。

私は貴方が好きです。

夢に見るほど好きなんです。って。


そう思い、蓮二に向き直ると蓮二が先に言葉を発した。


「夢を、見たんだ」

「夢?」


蓮二は一つ頷くと続けた。
その話に私はとても驚いた。

蓮二の見た夢の内容は私の見たものと酷似していたから。


「名前、俺はその少女がお前なのではないかと確信に近い何かを感じたんだ」


「だから、会いにきた」


蓮二が言い終わる頃には、いつの間にか止まっていた筈の涙がまた流れてきて蓮二は困ったように笑う。

「すまない、突然言われても困るよな」と頭を撫でられると、やはり彼は蓮二なのだと思った。


「蓮二」

「なんだ?」

「私もね、夢を見たの」


蓮二は私の夢の話を聞くと目を少し見開いて、それから微笑んだ。



曖昧世界のアナタ



20100209

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