幼い頃、笛を吹くデュースの隣で歌うのが好きだった。
別に歌うのが好きなんじゃない。マザーのあの子守歌を歌うのが好きなだけだ。
だけど、一人で歌うより、滑らかに笛を吹くデュースの隣で歌う方が楽しい。
一時は素人の歌で演奏の専門家ともいえるデュースの邪魔をしているのではと思っている時もあったけど、優しいデュースは僕が言い出す前にその気持ちを汲み取り、そんな事はありませんよ、と言ってきてくれた。
「私、エースさんと一緒に演奏するのが大好きです。だからエースさん、もっと歌って下さい」
そんな事を言われても、僕の歌のレパートリーはそう多くない。
だったら、とデュースの奏でる曲をハミングで歌ってみると、デュースは手を叩いて喜んでくれた。
「もっと二人で演奏しましょう!」
普段は大人しいデュースが、花のようにパッと咲かせた満面の笑顔。
僕は半ばそれにほだされて、歌を歌い続けた。
デュースと一緒にいるだけで、歌を歌うだけで、その日一日が、一秒が、一瞬が輝いているように思えた。
世界中の誰よりも幸せだと、そう思っていた。
「――デュース……」
僕が呟いても、デュースは答えてくれない。
血塗れの彼女は目を閉じて、安らかな寝顔を浮かべていた。
ああ、もう先に行ったのか。早すぎるよ。一緒に行きたかったのに。
でもまあいいか。どうせ辿り着く先は一緒なんだから。
「……ずっと、一緒……か」
身体が冷たい。瞼が重い。
鉛のように重苦しい眠気が差し、意識が永遠に醒めない闇の中へ沈み込んでいく。
死ぬのだ。
これから。
「……できるなら、同じ場所に……――」
一足先に行っている君へ、そっちはどうだ?
そこは、もう笛を武器に使わなくても、自由にのびのびと演奏できる、そんな優しい場所か?
叶うなら、僕もそこへ行って、そしてまた同じように隣に腰掛けたい。
そして、また歌おう。
一緒に。
「――あ、エースさん。この歌、一緒に演奏しませんか? 何だかここ、花畑と川と草原が広がるだけの変な世界ですけど……私、エースさんと一緒にいられるなら、どんな世界でも構いません」
僕もだよ。愛しい人。