「あの林檎か? 取ってやるよ。何なら庭の木から全部もぎ取ってきてやろうか?」
「そんなにいらない。一個でいいの」
「分かった。――ほら」
「有り難う」
「なあ、本当に林檎全部取らなくていいのか?」
「いい。それに一日じゃ食べ切れないでしょ。そんなに林檎が食べたいの?」
「いや。単にお前に渡したい」
「……あたしが欲しいって言った時だけでいいから。それ以外の時に取っちゃ駄目。いいね?」
「……ああ」
「……あんた何でそんなに林檎を渡したがるの? 確かに昔さ、林檎の思い出は、あるにはあったけど」
「単に渡したいんだ。お前に渡せる物は何でも渡したい」
「それ自己満足って言うんだけど知ってる?」
「ケイト……は、迷惑なのか?」
「迷惑っつーか、それじゃ単に一方的にエイトが楽しんでるだけじゃん。あたしはエイトと一緒がいいのに。――っと。ほら」
「りん……ご」
「これで御相子でしょ。ほら齧ってみなよ、おいしいよ」
「ん」
「どう?」
「……美味い」
「でっしょー? ほら、そこのベンチに座って、のんびりしようよ」
「ケイト」
「何?」
「これだけおいしい林檎なんだ、やっぱりお前に全て」
「だからそんなにいらないっての。つーかまた? この会話、もう二時間くらいずーっと堂々巡りしてんだけど……」