誰も死んで欲しくない、笑ってて欲しい。
僕の周りにいる人は、みんなみんなみんな。
「で、手っ取り早く、失われる前に殺そうってか」
「うん」
コックリと頷くジャックに、ナギは「参ったな」と苦笑した。
「俺、お前を悲しませたくはねえけど、殺されたくもないんだわ」
「でも僕、ナギを愛していたいんだよ」
薄っぺらい蛍光灯の光を浴びて、ジャックの刀がぎらりと輝く。
「ナギは0組じゃないから、死んだらそれまででしょ? 僕、それが嫌なんだ」
「俺を忘れたくないってか? てかお前が殺したら同じ結末になっちまうだろ」
「微妙に違うんだなぁ」
ふるふると首を横に振るジャック。
「今ここで僕がナギを殺す事に意味があるんだ。僕は今、ナギを愛している」
「そりゃどうも」
「だから今の内に殺す。ナギは誰にも殺させない。僕が殺す」
ジャックの目は本気だった。
嘘や冗談など一片も含んでいない。
虚しく呻いて、ナギは身体中の力を抜いた。
カラン、と虚しい金属音が響く。
ジャックの首筋に突きつけられていたナイフが、床の上に転がり落ちた音だった。
床の上に押し倒したナギの腰元に乗っかっているジャックは、それを見て至極嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「有り難う、ナギ」
「……このシチュエーション、格好だけなら嬉しいんだけどなぁ――」
ナギは虚空を仰いで呟いた。
盛大な溜息をつき、ジャックの顔を見て、
「つかさ、俺を殺したら記憶が消えるんだぜ? お前、いきなり俺の死体を見る羽目になるんだけど、その辺は何か考えてんのか?」
「うん。その辺はヨユー」
「マジで?」
「僕、愛して守りたい人ほど殺しておきたいんだ。それ自分でも自覚しているから。だからナギの死体を見ても多分こう思うだけだよ。あ、僕、この人の事が好きだったんだなって」
「……成程」
いや成程じゃねーだろ自分、とナギは突っ込みを入れた。
好きな人に殺されようとしているのに、何でこんなに冷静なんだ?
「大丈夫だよナギ、なるべく痛くしないようにするから」
ジャックが酷薄な笑みを浮かべる。
ナギの首筋に添えられていた鋭い冷たさが一旦離れた。
大気を切り裂きながら首筋へ向かってくる刃に、ナギはぽつりと呟く。
「俺、お前の事、大好きだぜ」
視界の中で、ジャックが花のような笑みを浮かべた。
直後。意識を断ち切る痛みと共に、血飛沫が飛び上がった。