何回も何十回も何百回も何千回も何万回も、数え切れないくらい似たような世界を繰り返している。

 逃げたいのに逃げられない。

 逃げられるけど逃げたくない。

 決して矛盾してはいない思いがぐるぐると胸の内を駆け巡る。

 この繰り返しはいつになったら終わるのか。

 終わってくれる時は来るのか。

 夢なら早く醒めて欲しい。

 ああ、だけど、大好きな人がいるから夢じゃないんだ。

 夢だとしても、醒めてもらったら困るんだ。

 だったらもう、こっちが諦めて、優しくも残酷な夢に浸るしかない。

 たとえそれがいつ終わるか分からない地獄なのだとしても。

「エイト……どうしたの? あんた顔が真っ青だよ?」

「ん、いや……何でもない」

 淡く微笑むエイトに、ケイトは首を捻った。

 どうも最近のエイトは何か隠し事をしている。

 いや、最近じゃない。

 ずっと前から、何を喋ってもこの曖昧な笑みしか返ってこないのだ。

 いつからだっただろうか。

「なあ、ケイト」

「何?」

「俺はな、――どういう世界だろうが、お前さえいてくれるんなら他はもう別に構わない」

 まるで今日の天気は晴れだなとでも言うような気軽さでポンと放たれた言葉に、ケイトの顔は一瞬で真っ赤になった。

 心臓がうるさいくらいに跳ね上がる。

 彼の瞳にじっと見つめられると、血液が沸騰したように熱い。

「な、ななななななな何を言ってんのこの馬鹿ぁ!!」

 ケイトが叫ぶと、エイトは「ははっ」と小さく笑った。

 やけに爽やかな笑みである。ムカつく。

「じゃあ、あたしは、あんたがいてくれる限りこの世界はどこまでいっても何があってもずっと終わらないでいて欲しい世界って思ってる!」

 今度はエイトの顔が真っ赤になった。

 余裕を気取っていた彼は跳ね上がるようにしてベンチから立ち上がり、

「何を恥ずかしい事を、そんなさらりと……!」

「あんたが先に言ったんでしょーが!!」

 負けじとケイトも叫ぶ。

 お互い顔は真っ赤で、心臓も弾んでいて、そのせいで息苦しくて体が熱くてたまらない。

 エイトは必死に息を整えながら今までの記憶を掘り起こした。

 今のは、エイトの記憶の中でもなかなかに斬新な口説き文句だった。

 それにケイトが口説きに口説きで言い返してきたのは、ほんのわずかな回数だ。

 どうやらこの世界はそのわずかな回数のパターンに当て嵌まっているらしい。

「……ははっ」

 ならもう存分に謳歌しようじゃないか、この世界を。

 今までのように。

 今まで通り。

「ちょっと! 何をにやにや笑ってんのよ馬鹿!」

 この馬鹿げた世界での青春を楽しもうじゃないか。

「――ケイト」

「何よ!」

 終わりにできないくらいの甘ったるい恋を、君と。

 終わり方なんて分からなくてもいい。

 終わらなくてもいい。

「愛しているぞ」

「……っ、な、何で今日はそんなに強気なわけ!?」

 ああもう道化でも何でも構わない、君がいるのなら、ずっとずっとこの世界を巡り続けていたい!

 





 



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