隣の人のマントの裾と、自分のマントの裾を重ねて、捩って、結ぶ。
ぎゅっと強く結ぶ。
ほどけないように。
「ねえ、リカ」
「……ん? 何?」
あー。返事するのが少し遅れちゃった。
頭の中がぼうっとして、実は手を動かすのでさえもう億劫だ。
本当は目を閉じて、バッタンって倒れてしまいたいくらい。
でも、それはしない。
せめてこの旗を立てるまで、保ってよ、私の身体。
「僕さ、こーいう終わりで良かったよ」
「……それは……」
私は思わず口籠もった。
こーいう終わり、とは、つまり、頑張ってルルサスとシドを倒して頑張って魔導院に帰還したというのに、着々にじわじわと死が近づいている、この現状を指しているのだろうか。
ジャックはこの終わりでいいの?
死ぬのに。死んじゃうのに。
死んだらもう生きられないのに。
「だってさ、リカは0組じゃないから、リカが死んじゃったら、僕はリカの事を忘れちゃうでしょ?」
そう。私は0組じゃない。
だからドクター・アレシアの加護は受けていない。死んだらそれまでだ。
0組じゃないけど、私は0組の面々と親しかった。だから神殿へも一緒に行った。一緒に戦いたかったから。
で、結末はこれだ。
「僕、リカの事を忘れたくないから。だから、今こうして一緒にいられる、こういう終わりで良かった」
ふと、手に温もりを感じる。
顔を上げると、ジャックが優しい微笑みを浮かべていた。
少し眉尻を下げて、口元を緩めて、今まで見た事の無い切なそうな表情で、
「僕、リカの事、好きだよ」
温もりがそっと手の甲を覆う。そこで、ジャックが自分の手を重ねているのだとやっと気づいた。
「だから、こういう結末で良かった。一緒にいられるんだ。終わりの瞬間まで、こうして、ずっと……」
ジャックが寄ってくる。彼の顔が、金髪が近づく。
後ずさりする間もなく抱き締められた。
「リカ、好き、大好き……」
肩に顔を埋めてジャックが呟く。
その声に私の胸は締め付けられた。
「ジャック」
「……なーに?」
「私も、嬉しいよ」
「……ほんと?」
ジャックの目がパシパシと瞬かれる。
血がこびりついた彼の頬が緩んで、
「すっごく嬉しい」
甘い笑みを浮かべた彼の顔が近づいてくる。
私はそっと半分だけ瞼を伏せた。
彼も目は閉じないまま。
唇がそっと重なって、一瞬だけど、永遠のような熱い温もりが宿る。
柔らかくて、あったかかった。
「リカ、あったかい……」
ジャックの目端からポロリと涙が零れ落ちる。
気が付けば私の頬にも、何故か熱い物が伝っていた。
心が満たされて熱くなる。
ゆっくりと身体を蝕み始めた冷たさを自覚しながら、それでも私は笑った。