先日、人生で初めて告白というやつをした。
クリスタリウムにいた彼に声を掛けて、ちょっと一緒に外に出てって言って、人気の無い所に行って。
貴方が好きです、って言った。
ナギからの答えはこれだった。
「悪い」
その一言だけだった。
だから、ああ振られたんだなって理解して、ナギの事が好きって気持ちを捨てて諦めようとしたのに。
どうして。
ねえ、どうして放っておいてくれないの?
「――何で……ナギ……」
「……悪い」
私の手を掴んだままナギは早足で歩いていく。
私は引っ張られるまま、おぼつかない足取りでついていくしかない。
振り払う気力さえ無いから。
「……ねえ、どうして」
「……悪い」
ナギに振られて何日か経った頃、睡眠に起床に食事に訓練と、普段通りの日常を送って心の傷がいくらか治った私に、一人の候補生が告白してきてくれた。
普段から友達として付き合っている人で、だけど向こうは私の事を異性として認識してくれていたらしい。
好きです、って言ってもらえた。
誰からも好かれる、優しくて誠実で真面目な彼に。
その事に嬉しさを覚えたのは、人としてだろうか、女としてだろうか。
分からない。
答えを出そうとした直前、どこからかやってきたナギがズカズカと踏み込んできて、私の手を乱暴に掴んで引っ張って行ったから。
そういえば彼はどうしたのだろう。
ナギが乱入してきた事、彼に引っ張られている事に意識が占められていて、今更になって思い出した。
あの優しくて誠実で真面目な彼はどうしているのだろう。
私なんかのせいで傷ついて欲しくない。あとできちんと謝っておかないと。
謝っておかないと。
謝る。
何で?
私は告白されて返事しようとした途端に、どこからかやってきたナギに引っ張られ、その場から離されてしまった。
あれ? これ悪いのナギじゃない?
「……ねえ、ナギ」
声を出すと、自分でも驚くくらい私の声は沈んでいた。
威圧感があるわけじゃない。自分でもそんな声は出せないと自覚している。
ただ重い何かが沈殿したように濁り切った、唸るような声音だった。
まずい、とは思うけど、今、いつもの調子での声は出せない。
心が沈み切っていて、一向に浮上してこない。
そのせいでいつもの調子が出ない。
「邪魔しないで」
振られたのだから、これくらい言う資格はあるだろう。
だからこれだけはと喉を震わせて呟くと、ナギはまた例の一言を吐いた。
「……悪い」
まさか、それしか言えないの?
私は納得できないよ。
よりによって貴方に、次の恋の邪魔をされてしまうなんて。