青みがかったドーム形状の空間に、中央の上空に浮かぶクリスタル。
というシンプルな地形であるこの場所の名前は天象の鎖。
聳え立つ建物も何も無く、星空に似た光の欠片がドーム状の群青の中に散らばっていて、ただただ広い。
音も何もかも吸い込むような神秘的な静けさを湛えたここに、重厚な鎧を纏った暗黒騎士が姿を現す。
暗黒騎士は天象の鎖の、中央からやや離れた所まで歩き、立ち止まると、そこで暗黒騎士の姿を解いた。
パラディンとなり、姿と素顔を晒した彼は、そこに膝を折って座り込んだ。
次いでゆっくりと背中の角度を後ろに傾け、天象の鎖の床に腰、背、肩の後ろを横たえさせ、ついには仰向けに倒れ込んだ。
しん、と訪れる静寂。
「何をしているんだ」
その沈黙の中に、しかし静寂は壊さず保つ、涼やかな声が響いた。
セシルが首をわずかに横に傾けると、視界の中に凛と佇み立つ勇者の姿があった。
「ライト、ねえ、ちょっと横たわって御覧よ」
「……警戒を怠ってはならない」
「ジタンとスコールに頼んでいるから大丈夫。ちょっと時間を貰っていいかな、って言ったら、引き受けてくれたよ」
ほらこっちおいでよ、とセシルは自分の隣の空間をポンポンと叩く。
まるで我が子にここへおいでお眠りと優しく語りかける父のようだ。
ライトは周りを見渡し、実際にセシルの挙げた二人の気配があるのを確認すると、重量級の鎧をガシャガシャと鳴らしつつ腰を下ろした。
「せっかくの休憩なんだから兜も脱いじゃいなよ」
ライトはセシルを見下ろした。セシルは小さく微笑むだけだ。そこには特にこれといった茶目っ気も悪意も無い。ただ穏やかな笑みがある。
ライトは頭部を守る兜を脱ぎ、それを傍らに置いた。
再びセシルを見下ろすと、セシルは先程の笑みのままだ。
ライトは鎧をガチャガッシャンと言わせながら、言われた通り仰向けに倒れた。
床とくっつく首筋の辺りに、ふわふわした何かを感じる。顔を傾けて見るとセシルの髪だった。
「ねえ、貴方と僕の髪の色、ちょっと似ているよね」
花のように広がったセシルの柔らかい髪と、強い癖が付いたライトの硬質の髪が床の上で重なり、混ざり合う。
その内の一房を掬い取って、セシルは楽しそうに笑った。
「ちょっとお揃い」
ライトはセシルが指先で柔らかくいじる髪の一房を見た。
セシルは似ている色と言っていたが――セシルの髪は白に近い銀、ライトの髪は灰色に近い銀色である。どちらかというと似ていないのではと思う。
だが、余分な力が抜けたリラックスした表情で笑うセシルを見ていると、これは無粋なツッコミだなと、ライトはそう判断した。
「ねえ、ライト。あのさ――」
ぽつぽつと、ゆっくりとセシルが語り始める。
ライトは首を曲げて頭をセシルに向けた。
パチリと目が合うと、セシルがくすぐったそうに肩を震わせて笑う。
取り留めのない話題から、穏やかに緩やかに、二人の雑談が始まった。