ライトニングがフリオニールにのばらを返し、記憶が全て戻ったらのばらを譲るとフリオニールが約束してから、いくらかの時間が経った。
何せこの世界では時間の間隔が無い。そのため、あのやりとりは果たして昨日に交わしたものなのか、はたまた半月前に交わしたものなのか、良く分からなくなっていた。
「……うーん」
イミテーションとの戦闘が終わり、ライトの指示で一旦休憩という事になった。
体力の残っているセシルやクラウドは哨戒に出ており、ティナやオニオンナイトが負傷者にケアルをかけている。
フリオニールは軽傷で済んだため、自身のケアルで既に治療を終えていた。
セシルやクラウドが戻ってくるまでにはまだ時間がかかるだろう。
それまでの間、フリオニールはラグナから得て、ライトニングが拾ってくれたのばらをずっと眺めていた。
のばら。
不思議な響きだ。そして懐かしいとも思う。
あっという間にパッと元の世界での記憶が蘇ってくる――という如実な効果こそ表れないが、眺めていると、穏やかさにも似た懐かしさが湧き上がってくる。
戦いで釣り上がり締まっていた目元が緩んで、高ぶっていた気分が徐々に落ち着いていくのを感じる。
吐息をする。と、
「何だ、疲れていたのか?」
「ライトニング」
いつの間にか彼女が近くにいた。
「お前はいつもそれを見ているな」
「見ていると懐かしい感じがするんだ。……もう少しで思い出せそうなんだが……すまない」
フリオニールの唐突な謝罪に、ライトニングは目を見開いてから淡く微笑んだ。
「別に急かしているわけじゃない。それに、あまり気を取られていると奇襲にも対応できなくなるぞ」
「ああ、そうだな」
のばらを収めようとする――と、不意にライトニングがフリオニールの手を取った。
普段は武器を振り回す力強い手だが、戦闘外の今は、白くほっそりとしていて、何やらしっとりふにりと柔らかい感触までする。
童貞だの少しは女に慣れろだのさんざん言われている通り女性に対しての免疫が薄いフリオニールはすぐに狼狽えた。
「え、な、何だ? 何?」
そんなフリオニールの動揺をよそに、
「……ふむ……」
ライトニングはそっと慎重な手つきでのばらを手に取った。
フリオニールが目をパチクリさせている間に、それをおもむろにフリオニールの胸元に近づけ、じっと眺める。
「ライトニング?」
フリオニールのきょとんとした問いかけに彼女は返さず、のばらを持つ手を高く持ち上げ、今度は耳元に当てる。
そして頭部に行くと、うんと頷き、おもむろにフリオニールが頭部に巻いたバンダナと髪の間にのばらを挿し込んだ。
「えっと……何なんだ?」
ライトニングが挿した物をすぐに取るのも憚られる。
のばらを落とさないため小首は傾げずもう一度尋ねると、鋭く引き締まった華やかな美貌のライトニングは、口元に柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
「お前にはのばらが似合う」
年上で、美しくて、しかも実力も認めている女性に衒いの無い笑みで言われ、フリオニールの顔はたちまち真っ赤になった。