可愛いものは正義。
なら、可愛いものと可愛いものがくっついていたら?
そりゃもう誰も敵わない、汚そうと伸ばした指の方が火傷してしまいそうなくらいの、とんでもない破壊力を秘める事になる。
バッツはそれを今、我が身で体験していた。
「――……っ!」
口元に掌を押し当て、漏れ出てしまいそうな声を必死に抑え込む。
彼の視線の先には、ベッドの上で横たわり眠るスコールとジタンの姿があった。
ジタンの方はブーツを脱いだ状態でベッドの上に横たわり背を丸めているが、そのジタンの背中へ抱き締めるように腕を回しているスコールの方は靴を脱いだ上にジャケットも羽織っておらず、ベルトも外されている。
今は昼の正午を過ぎた辺り。
今日のスコールに割り当てられた仕事は、午前の哨戒を終えた後は午後に一休みし、夕方からは夕食の当番だったはずだ。
服装から推測するに、哨戒から戻った後、仮眠を取っているのだろう。
一緒に出かけたティナから、小規模ではあるが高レベルのイミテーションの群れと戦い殲滅したとの報告が上がっている。
いつ奇襲が来てもおかしくないため、陣営のコテージに泊まって仲間が近くにいる今の内に休んでおく――。いかにもスコールらしい合理的な判断だ。
対してジタンの今日の予定は午前が付近の捜索に午後からは休み。
これも推測に過ぎないが、午後は休みのスコールを誘いに彼の自室を訪れたのだろう。
そして、ベッドの上で眠っているスコールを見つけ、添い寝してやるかぁ、なんて言ってベッドの上に上り、横たわって、スコールの腕を持ち上げ自身の背に回させ、ふわあああって欠伸して瞼を閉じ、程無くして眠り始める。
想像するに難くない。
一点、スコールが良く起きなかったなと思うが、それほど疲れていたのだろうか。
あるいは、相手がジタンだからこそ、警戒せず、気づいたとしても受け入れたのだろうか。
――俺がやっても起きないでくれるかなぁ。
試してみたいと思いはするが、それでスコールが起きてしまったら申し訳ない。
自己管理はきちんとしている彼の事だ、夕方の当番までにはきっちりと起きてくるだろう。
なら今は休ませてやりたい。
というより、この眼福を目に焼きつけておきたい。
無防備に安らかな寝顔で寝る二人は双子座のように寄り添い合い、スコールの腕はジタンの背中に回され、ジタンはスコールの腕の中にいる。
何かの夢を見ているのか、ジタンの尻尾の先端がわずかにではあるが揺れ動いている。
ふと、ジタンが浅く呻いた。
まさか起こしたのかとバッツがぎくりと身体を強張らせるも、ジタンはむにゃむにゃと口をもごもごさせ、すんすんと鼻を鳴らしてスコールの匂いを嗅ぐと、スコールの胸元に顔を摺り寄せた。
何か落ち着いたのか、安堵したのか、ジタンの尻尾が動くのをやめてベッドの上に沈む。
そして何か楽しいのか、嬉しいのか、尻尾が丸くなったりくねくねと動いたりしてシーツの表面を掻き回していく。
これもまた実に可愛らしい。
――やべ。
鼻血が出そうだ。
出る前にバッツは部屋を出て――そこでハタと思いつき、ついでに自分の部屋から取ってきた毛布を二人にかけてやった。
スコールのベッドの布団は足元の方で三つに畳まれたまま、かけられていない。
毛布を被るのを――部屋の鍵をかけるのも忘れるくらい、疲れていたのだろうか。
「……お休み」
良い夢を。
大好きな二人に優しく包容力のある笑みを向け、足音を忍ばせて、バッツは部屋を出た。