ふと、立ち止まる。

 ここがどこなのかを、忘れ去って。

「どうした、スコール?」

 殿を務めるライトニングが声をかけてくる。

 彼女の一声に、隊を組んで進んでいた他の三人も立ち止まり、振り向いてきた。

 駄目だ、とスコールは思う。

 仲間に懸念させてはならない。それはSeeDのやる事ではない。コスモスに選ばれし戦士に許された甘えではない。

 分かっている。

 分かっているのに、どうしても、どうにも。

「息苦しい……」

 胸の中が鉛のように重い。

 歩けない。息ができない。

 どうしようもない。

 立ち止まったまま、歩かず、動き出せそうにないスコールの様子に、ティーダとクラウドが顔を見合わせる。

 心配をさせている。

 問題ない、と言いたいのに言えない。

 この閉鎖された世界の澱んだ空気を吸ってしまったからなのか、スコールの肺は喉は、思ったように動いてくれない。

「なあスコール!」

 その時、ヴァンが大声を上げた。その盛大な音量にぎょっとするスコールの頬にヴァンは手を添え、

「上を向いてみろよ。ほい」

 と、スコールの顔を上に持ち上げた。されるがままに上を仰いだスコールの視線に、空が映る。

 青白い空に真っ白な雲が浮かぶ、どこまでも透明な天上の空。

 壁も床も無い、ただただ突き抜ける空間。

「空はどこまでも広い」

 ヴァンが呟く。いつもの邪気の無さに、幼子を諭す兄のような慕わしさを滲ませて、

「息苦しくなったら空を見てみろよ。そしたら空気なんていくらでも吸えるから」

「ヴァン……」

「太陽が昇ったらあったかい。風が吹いたら心も飛ぶような爽快感が味わえる。雷は心を震わせてくれる。雨は気持ちを宥めて落ち着かせてくれるんだ」

 な、とヴァンは無邪気に笑った。

「騙されたと思って何か気分が沈んだら空を見てみろよ。俺はどうしようもないとか周りに迷惑をかけちゃいけないとか、そんな狭い所ばっかり見ないでさ。空を見て。そしたら俺らスコールが落ち込んでるってすぐに気づけるし、気づいたらすぐにすっ飛んで行って慰めるし」

「……慰めるって、どうやって」

「こうやって!」

 と、ヴァンは満面の笑みでのハグを寄越してきた。

 目をパチクリとさせるスコールをよそに、周囲は急展開で動く。

「狡いっス、ヴァン! 俺もスコールにハグ!」

 とティーダがタックルしてこれば、

「ん」

 年上組のクラウドが更に包むように抱き込め、

「私を忘れるな」

 女性の身のライトニングが躊躇いなく抱き締めてきた。

「わ、わっ、ライトニングの胸!?」

「ヴァン、テンション上がったっスね」

「さあハグだ」

 きゅうきゅうぎゅうぎゅう。

「ちょ、待て、く、苦しい!」

 先程とは別の意味で息苦しい。スコールが訴えるが、気を許して弱みを見せた獅子を、仲間達が放っておくわけがない。

「こーいう時はっ、スコールも俺達を抱き締めるんだよ!」

「そうっスよ! 空気を読むっス!」

「お前らに言われたくない」

 だがヴァンの言う通りでもあるのだろう。

 スコールは腕を精一杯に伸ばして、雨のように降り注ぐ愛情をくれる四人を抱き締めた。


  

 
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